「あ、その、ＬＩＮＥとかの交換でも結構です！さっきからずっと見ていたんですけど、お、お話をして見たくて…」


男の言葉の意味をしばらく把握できず、彩響はただその男の人を見上げた。え、なに、これはもしかして…「ナンパ」っていうやつ？彩響より先に状況を把握した理央が先に「きゃー」と軽い悲鳴を上げた。


「あら、なにやってるの、彩響！さっさと教えなさいよ！」

「え？？なに言ってるの？」

「あんたこそなに言ってるの！せっかくナンパされたんだから、いいチャンスじゃん！」

「あ、あの、突然すみません！俺本当普段はこんなことしないんですけど、ほ、本当に勇気絞り出しました！よろしくお願いします！」


青年は顔を真っ赤にして、自分のスマホを前に出す。思わぬ出来事に慌てる中、理央がそのスマホを途中で奪うように取った。そして早速自分が画面を弄り始めた。


「私この子のラインＩＤ知ってますから代わりに登録しておきます！」

「え？ちょっと、なに勝手に…！」

「この子の名前、彩響と言うんです。あとで連絡してください！」

「ありがとうございます！連絡します！」


そう言って、スーツの青年は自分の席に戻ってしまった。思わず自分の連絡先を教えてしまった彩響が理央に文句を言いだした。


「なに人の連絡先勝手に教えてるの？！困るよ！」

「ええ〜いいじゃん、見た目誠実そうだし、連絡来たら会ってみなよ」

「居酒屋でナンパしてくるやつの中にちゃんとしたやつがいるもんですか！」

「まあまあそんなこと言わずに、あんたもあの家政夫さんが出てったあといろいろ寂しんでしょう？」

「寂しくないよ。忙しいから」

「その「忙しい」の言葉で周りのことよく見ようとしていないから、あんたに好意を持ってくれた人も全部去って行っちゃうんだよ。もうすこし心に余裕をもって周りを見たら、いいご縁が待っているかもしれないよ？」


理央は遠回しに成のことを言っていた。あれだけ違うって言っても、その方向に考えられずにはいられないらしい。彩響は再び強調した。

「だから、物事はそうドラマのようにうまくいかないんだって」

「そうだと思っているからそうなるのよ。なに、離婚うんぬん言ってる私の言葉は聞く価値もないの？」

「そんなこと言ってない。ただナンパ野郎は信用できません」

「とりあえず、連絡来たら一回だけ会ってみて」

「来ないし、来ても無視します」

「はいはい〜頑張ってね〜応援してるから〜」