電話をかけて、いても立ってもいられないまま待つこと約10分。外から一瞬騒がしい音がして、がたんと扉が開いた。そこには片方にバイクのヘルメット、もう片方にUSBを高く持ち上げた河原塚さんが立っていた。いつものライダースジャケットや、派手な赤髪の彼に一瞬後光がさす。あまりにも圧倒的な存在感で、佐藤くんがボソっとつぶやいた。


「しゅ、主任のカレシかっけー!!」

「違う!」

「彩響、これだろ?!持ってきた!」


河原塚さんが手に持っているUSBを渡す。感謝の気持ちを伝える余裕もなく、彩響がそれを握ってそのまま外へ飛び…出そうとしたが、後ろで誰かが手を引っ張る。振り向くと、そこに河原塚さんが自分の手を掴んでいた。


「ど、どうしたんですか?」

「まあ、そんな慌てるなよ。まだちょっと時間あるんだろう?」

「いや、でも急いでるので…」

「とりあえずここに座れよ。ほら、早く」


河原塚さんの手に引っ張られ、彩響はソファーのところまで来てしまった。無理やり肩を押さえて、彩響を座らせると、河原塚さんも床に片膝を立てて座る。その時まで彩響の手をずっと握ったままだった。


「そんな慌てて会議に入ったら、絶対大きいミスに繋がる。とりあえず、目を閉じてみろ」

「え?」

「ほら、すぐ終わるから。あんだけ準備しておいて、大事なときにミスったりしたら悔しいだろう?そんな時間取らないから」


結局言われたまま、彩響は目を閉じた。引き続き河原塚さんの声が聞こえる。


「じゃあ息を吸って。大きく」

「…」

「また大きく吐いて。そう、もう一回」

言われるまま深呼吸を3回繰り返す。不思議と少し落ち着いた気分になり、彩響は目を開けた。前には河原塚さんの顔が見える。


「どう?」

「…落ち着いたようです」

「うん、それで結構」

「あの、ありがとうございます…」


なんだか恥ずかしい気分になり、彩響はその場からパッと立ち上がった。さっさと部屋を出ようと扉へ向かうと、なにかに気づいた河原塚さんが彩響を呼び止めた。


「彩響!あんた、靴はどうした?」


その言葉に彩響は足元を見下ろす。そこにはストッキングだけを履いている自分の足が見えた。隣にいた佐藤くんもびっくりして聞いた。


「え?そんな?いつ落としたんすか?」