そこまで言われ、彩響は思わず席からぱっと立ち上がった。それを見た成の目も丸くなる。アンブロック出版社は、以前彩響が応募した小説コンテストを開催した出版社だ。爆発しそうな心臓を抑え、彩響が答える。


「はい、どのようなご用件でしょう?」

「先日、弊社で開催した小説コンテストの件ですが…峯野さんの原稿を弊社でとても高く評価し、ぜひとも出版したいと思いご連絡差し上げました。そして、この件について直接会ってお話をしたいのですが…」


嘘でしょう、本当に?詳細を聞いたあと、彩響は電話を切った。その瞬間を待っていた成も一緒に立ち上がり、急いで質問してきた。


「どうした、まさか、出版社から??優勝したの?!?」

「そう、私、本出せるよ、今日の夜編集長にあってくるよ!!」

「おめでとう!!!!」


自分が優勝でもしたように、成が叫ぶ。慌てて周りを見回すと、冷蔵庫からビール缶を持ってきた。その行動に思わず彩響も笑ったしまった。缶を両手に持ったまま、成が大きい声で叫んだ。


「ごめん、取り敢えずなんか乾杯でもしなきゃいけない気持ちで。これでも飲む?」


その熱い反応に思わず笑ってしまった。笑えるけど、その純粋な反応が嬉しい。彩響が缶を一つ握って答えた。


「いいよ、飲酒勤務は困るから。取り敢えず、飲むフリはしようか」

「おめでとう、本当に!ほら、やはりやろうと思えばイケるもんだろ!本当良かった!!今日どこで会うの?」

「あ、新宿で待ち合わせすることにしたよ」

「会って詳しく聞いてきて。本出たら真っ先にサインしてくれよな、先生!」

「やめてよ、そんな言い方…。でも、本当にありがとう!!」


なれない響きだけど、まんざらでもない。全く期待しなかったわけではないけど、本当にこんないい結果がでるとは思わなかった。抑えられない興奮で深呼吸していると、成が大きい笑顔で手を握った。


「彩響、本当におめでとう!いい結果になってよかったよ。俺マジ嬉しい。俺も向こうで頑張るから!」

「いや、これは全部あなたのおかげよ、成。勇気をくれてありがとう」

「掃除してよかっただろ?」

成の質問に彩響が笑った。

「うん!掃除してよかった!」


興奮の朝食を終え、彩響は会社へ向かった。今日は何があっても絶対定時に帰る、そう決心する彩響の頭の中にさっきの成の話が浮かんだ。

(なんか言おうとしてたっけ…?)

しかしその疑問はすぐ頭の中から薄れていった。取り敢えず今日のミーティングが楽しみで仕方ない。彩響は高まる気分を抑えて、会社へ向かった。