「ありがとう、峯野さん!!頼りにしています!!!なんだったら私が代わりに家事やりますよ!」

「いいえ、それは結構です…」





もうすっかり暗くなった線路沿いをしばらく歩く。片手にはカバン、そして片手には結構大きい箱を持って、彩響は家への道を急いだ。玄関に入る直前、ふとドアノブを回す手が止まる。そのまま彩響はしばらく考え込んだ。悩みの対象、それはもちろん…


(私がもし、この話を聞かなかったことにして、成もこのままなにも言わなかったら…この平和な生活がずっと続くのかな?)


とても平和で、穏やかで、ずっと続いてほしいと思うこの日々。もう素直に認めよう、自分は成がいてくれて嬉しいのだ。だからこの状況をどうすればいいのか、正直迷っている。話し合って、もし彼が本当に「家政夫をやめる」と言い出したら、そのときは…。

(いや、違う。私の気持ちで決める問題じゃない。これは、あくまで成本人の意志だから、私が止めるか止めないかの問題じゃない)

軽く深呼吸して、彩響は中へ入った。毎日通っている自分の家なのに、今日はなんだか変な気分になる。リビングに入ると、洗濯物を畳んでいた成がこっちに気付いてくれた。

「お、彩響、お帰り。今日仕事はどうだった?」

「ただいま。いつも通りだったよ」

「夕ご飯は?食べる?」

「うん、でも、その前に、話がある。…これ、プレゼント」

「プレゼント?」


彩響が持っていた箱を渡す。成はわけわからない顔で、取り敢えずそれを受け取った。箱の中に入ってあったもの、それは…。中身を確認した成の顔が一瞬変わった。


「これ、どういう意味?」

「サッカーコーチのオファー受けたんでしょう?使えるかと思って、買ってきたよ。受け取って欲しい」


成はしばらく黙って、箱の中のサッカーボールを見る。普段素直に振る舞っていた分、今の複雑な感情をうまく隠せないように見えた。成が長いため息をつき、質問した。


「誰に聞いた?」

「あなたのお母さんよ。直接私に会いにきたよ」

「マジかよ」


成はなにも言わず、そのままキッチンの方へ行ってしまった。シンクの前で黙ってお皿を洗い始める彼を見て、彩響も追いかける。少し離れたところで、彩響が引き続き声をかけた。


「話はまだ終わってないよ。そして、お母さんには怒らないで。心配していたから」

「心配、ね。ーで、なんて言ってた?俺を説得しろとでも言った?」