「俺が仕事初日に言った言葉、覚えてる?『家はそこに住んでいる人を映す鏡』って言ったけど、それはまさにあの頃の自分の部屋を見て思ったことだったよ。そして、掃除をしながら、思った。時間を取り戻すことはできない。なら、今からでもいいから、なにかきっと自分に出来ることがあると、必ず探せると思った。綺麗になった部屋を見て、不思議とそう思えたんだ」
そこから少しずつ部屋の外にでて、家の外にもでて、急激に増えた体重も少しずつ戻ってきた。リハビリもなんとか無事済まして、一般人のレベルくらいまで動けるようになった。そして、ふと気付いた。辛かった気持ちも、家族に対する罪悪感も、すべて掃除をしながら徐々に消えて行った。だから、この「掃除」を職にしよう。きっと世の中には、俺のような人間がいっぱいいる。そんなひとたちに自分の話をして、掃除して、また新たな道を探し出してほしい。
淡々と話す彼の声はとても優しくて、でも力強くて、どこにも昔の辛い記憶は残ってないように思えた。彩響はふと夜空の月を見上げた。ずっと横になっていた成が体をおこし、彩響の隣に座った。
「あんたも初めて会ったときは俺とすごく似てると思った。だから、なんとかして助けてあげたいと思ったよ。形は違うけど、あんたはあんたなりに苦労して、どうすればいいのか分からなくなっていただろ?俺もそうだったし、だから無理やり掃除するようにしたんだ。自分の経験もあったから」
「うん、最初は本当迷惑なやつだと思ったわ。金払って雇ったのに、逆に掃除させられたからね」
「今は?今でもそう思う?」
成がなんだか深刻な顔で聞く。その顔がなんだか可愛くて、彩響は笑ってしまった。
「違うよ、感謝してるよ、本当に。今更だけど、首にしなくてよかったと思うよ」
彩響の答えに、成の顔が明るくなる。そしてすぐ彩響の手をとり、ぎゅっと握ってこう言った。近くなった距離になんだかドキドキする。
「がんばれよ、彩響。人生は本当終わるまで終わったわけじゃない。俺はもう選手には戻れないけど、作家はいつでもなれるし、あんたもきっとなれる。いままでの苦労を無駄にせず、いい作家になってくれ」
そこから少しずつ部屋の外にでて、家の外にもでて、急激に増えた体重も少しずつ戻ってきた。リハビリもなんとか無事済まして、一般人のレベルくらいまで動けるようになった。そして、ふと気付いた。辛かった気持ちも、家族に対する罪悪感も、すべて掃除をしながら徐々に消えて行った。だから、この「掃除」を職にしよう。きっと世の中には、俺のような人間がいっぱいいる。そんなひとたちに自分の話をして、掃除して、また新たな道を探し出してほしい。
淡々と話す彼の声はとても優しくて、でも力強くて、どこにも昔の辛い記憶は残ってないように思えた。彩響はふと夜空の月を見上げた。ずっと横になっていた成が体をおこし、彩響の隣に座った。
「あんたも初めて会ったときは俺とすごく似てると思った。だから、なんとかして助けてあげたいと思ったよ。形は違うけど、あんたはあんたなりに苦労して、どうすればいいのか分からなくなっていただろ?俺もそうだったし、だから無理やり掃除するようにしたんだ。自分の経験もあったから」
「うん、最初は本当迷惑なやつだと思ったわ。金払って雇ったのに、逆に掃除させられたからね」
「今は?今でもそう思う?」
成がなんだか深刻な顔で聞く。その顔がなんだか可愛くて、彩響は笑ってしまった。
「違うよ、感謝してるよ、本当に。今更だけど、首にしなくてよかったと思うよ」
彩響の答えに、成の顔が明るくなる。そしてすぐ彩響の手をとり、ぎゅっと握ってこう言った。近くなった距離になんだかドキドキする。
「がんばれよ、彩響。人生は本当終わるまで終わったわけじゃない。俺はもう選手には戻れないけど、作家はいつでもなれるし、あんたもきっとなれる。いままでの苦労を無駄にせず、いい作家になってくれ」