「いいよ、なら聞くだけ聞いて」

「……」

「成、いつでもいいよ。私は待つよ、みんな待ってるよ。焦る必要もないし、ただゆっくり、時間をかけて考えてみて」


母は幼い頃からずっと自分をサポートしてくれていて、誰より心強い味方だった。いつだって自分のことを誇らしく思ってくれて、成績がでないときもその態度は決して変わらなかった。それが、今はこんな情けない格好で…申し訳なくて、顔も見られない。成はもっと自分の顔を枕に深く埋めた。


「…そう、確かに、あんたは有望な選手だったよ。それはとても誇らしく、すてきなことだった。でも、今サッカーができなくなったから、だからあなたが誇らしくなくなるとか、そういうことはないよ。サッカーをもし、しなくても、どんな仕事をしても、あなたは私達の立派な息子で、立派なお兄ちゃんだよ。それだけは忘れないで」


そう言って、母は成の頭をポンポン叩いて、立ち上がった。ドアが閉まる音がするまで、成は涙を必死で堪えた。そして結局、声を殺して枕がびしょ濡れになるまで泣いた。泣いても泣いても涙が止まらなかった。

布団から出ると、母が開けておいた窓から綺麗な日差しが部屋を映していた。今まで自分が廃人生活をしながら全く面倒を見ていなかった部屋は、ゴミ屋敷の状態になっていた。明るい光が生々しい現場を生中継する中、成がベッドから立ち上がった。まだ体は本調子ではないけど、今すぐやりたいことがあった。

「…掃除を…しよう」



ー「それで、家政夫になろうと思ったの?」


彩響の質問に成がぱっと首を横に振った。


「いや、最初からそう思ったわけじゃない。正直、俺も掃除を職にできるとはなかなか思えなかった。でも、とにかく掃除がしたかった。何をどうすればいいのか全く分からなかったけど、取り敢えずこの汚い部屋をなんとかすると、心の整理が出来ると思ったから」


あ、これは自分の話でもある。元カレと別れ、汚いマンションで過ごすときは、何度も掃除をしたいと思っていた。でもどこから始めればいいのか分からず、結局は長年放置していた。きっと成に会ってなかったら、今でもあのゴミ屋敷のまま放置していたんだと思う。