「佐藤くんー!!今すぐ来てー!」


名前を呼ばれた男が急いで彩響のところに走ってくる。予想していたかのように、彼が大量のファイルを机に下ろす。


「峯野主任、昨年の撮影コンセプトの資料集めてきました!」

「ありがとう、それ忘れず持って来て。あと、申し訳ないけどコンビニでなんか適当に食べられるもの買ってきてくれる?領収書も忘れずに」

「もちろんす!主任、昨日の4時に俺とおやつ食べてそれ以来っすね?ぱぱっと買ってきますんで!」


佐藤くんの声にぱっと時計を見る。時間はもう朝の11時で、昨夜からご飯どころか水もまともに飲んでない気がする。もちろん寝てもいない。彩響はあえて目をそらし、時計を見てみぬふりした。時間を意識した瞬間から眠気と空腹が襲ってくる。忘れろ、今は仕事中だ。今は仕事中だ!


「パンとミルク買ってきました!」

「分かった、じゃあタクシー呼んで!私一階に降りてるから荷物持ってきて!」


奪うように佐藤くんからレジ袋を取り、エレベータへ飛び込んだ。エレベータの数字が9から1に変わるその短い間、急いでパンを袋から出し、ギュッと絞って口の中に突っ込む。味が何なのか、そんなもの把握する余裕などない。口の中をパンでいっぱいにしてもぐもぐすると、エレベータがチン!と音を出す。会社の正門まで走り、口の中のものを牛乳で胃袋に流した。


「主任!機材持ってきました!」

「一緒に乗って!」

タクシーが到着するのと同時に佐藤くんが現れた。二人で後部座席に乗り込むと、間もなくタクシーが出発する。佐藤くんが心配そうに声をかけた。


「到着するまで30分はかかるらしいし、ちょっと寝たらどうっすか?」

「ありがとう、でも一回寝ちゃったら起きられないよ。だから大丈夫」

「いや、でも…」


寝る代わりに、彩響は持っていたファイルを確認した。今日の撮影は海辺で、モデルも外国のそれなりに有名な人を呼んでいるから、どうしても気を抜くことはできない。彩響は車の窓の向こうを見ながら考えた。


(早く着け、早く着け…早く全部終わらせて寝たい…)