なにかに取り憑かれたように、彩響もそっちへ向かう。少しずつ近づく距離が、大したことでもないのに、なぜが胸をドキドキさせる。手が届く距離まで来ると、成がそのまま砂浜の上に座った。隣をパンパン叩かれ、彩響もその隣に座る。


「…まあ、認めるよ。確かに、いい場所だね」

「だろ?」

「でも次は行き先くらい教えて連れてきなさい。本当に変なところへ拉致されると思ったから」

「へへっ、そこはサプライズ的な感じ。でも次からはちゃんと言います」


彩響の言葉に成が誤魔化すように笑う。その顔に心が揺れるのは、きっとこの場所のせいだ。そう、すべてこの海のせいに違いない。


「終わった感想は?大学の受験終わった高校生の気分?」

「え?いや、どうかね…私は受験終わった日もバイトしに行ってたから、そこに比べてもね…」

「うわ、マジかよ。どんなバイトしてた?」

「カレー屋とか、ラーメン屋とか、チラシも配ったし、パン屋でパンも売ってた。居酒屋でビールも運んだ。高校生になってから就職するまではずっと、なにかしらやってたね」

「すごい経歴だな。俺はボールしか蹴ってないのに」

「いや、あなたは選手だったし。ボール蹴って当たり前でしょう」

「まあ、サッカーは好きだったから後悔はしないけど…もう少し他のこともみていたらよかったな、と思うときはあるよ」

(サッカーの話、聞いてもいいのかな…)


以前の出来事もあり、なるべく触れないようにはしていたけど、やはり気になる。彩響は恐る恐る口を開けた。


「あのね、なんでサッカーやめたのか聞いていい?」

「なんだ、聞きたい?」


意外と軽い反応が返ってきた。彩響が頷くと、成がそのまま腕を伸ばし、後ろへ体を倒した。夜空を眺め、彼が話す。


「そうだな、前に聞かれたときはなんかイライラしてたから、俺の中で整理ができてなかったんだと思うけど、今日は意外と大丈夫。だから言える」

「…その、あの時は…ごめんなさい」

「いいよいいよ、気にするな。俺さ、昔から運動できて、小学校の頃からサッカー始めたんだよ。その時からずっと俺の人生はサッカーしかない、サッカー選手になるしかないと思ってて。高校の進学も大学の進学も全部サッカーができるところを選んだ」