夜中の2時なのに、成はまだ起きている。彩響が執筆を始めてからはずっとこんな感じだ。いつ寝ているのか気になるが、成はいつもの顔で聞いてきた。


「なんか食べる?今日Youtube見たんだけど、50kcalで収まる夜食があるらしいよ。今日はそれでどう?」

「ありがとう、ちょっと行き詰まってしまって。休憩しにきたよ」

「じゃあ、鍋でも拭く??」

「鍋?」


成が引き出しから鍋を持ってきた。そしてテーブルの上においてあった雑巾を渡す。成も同じく鍋と雑巾を取り、そのまま鍋を拭きはじめた。


「ほら、こうして綺麗に拭くの。すると、気持ちの整理ができて、まとまる」

「…これもあなたのその「掃除理論」に入るもの?」

「まあね。それに、これには大事なメリットがある」

「メリット?」

「鍋がピカピカになると、すげー気持ち良い!まさにエクスタシー!!」


(…変態だ、ここに変態がいる…)


そうだ、今更なにを言う、彼は元々掃除変態だった。しかし、その変態さんに何度も助けられたのも事実だ。彩響は何も言わず、同じく鍋を拭きはじめた。


「こう、かな?」

「あ、こうして、円を描く感じで。そうそう」

「全く、30にもなってこんな夜中に鍋拭くことになるとは思わなかったわ…」

「お互い様だよ。まさか、夜中の2時に鍋拭く生活とか、想像もしてなかったぜ」

「いや、家政夫になった時点で少しは想像してたのでは…?」

「……」

「……」

ー鍋を拭いて、徹夜を数回して、そしてまた原稿を書く。
そんなことの繰り返しが重なり、又重なり、そして…。



「…お…終わった…?」


原稿を書きはじめて約一ヶ月。連載サイトのカテゴリーから「完結」という文字を選択し、「保存」のボタンを押す。その後、彩響はしばらくぼーっと画面を見守った。この瞬間だけを待っていたのに、いざこうして終わらせてみると、実感するのになかなか時間がかかった。

(ブックマーク数、50人…始める前は一人でも読んでくれる人がいれば嬉しいと思ったけど、ここまで来たらもう少し人が増えたら良かったなーと思うんだよね)

いや、とにかく今は無事終わらせたことを喜ぶべきだ。彩響は椅子から立ち上がり、リビングへ出た。


「成!!原稿終わった!」

「え?終わったの?マジで?!お疲れ様!」