「で、旦那さんはどうしてるの?」
「はあ…相変わらずだよ」
親友の話を聞きながら、彩響はネットサイトをクリックする。コメントは特にないけど、ブックマークはまた二人くらい増えている。今までの連載分を軽くめくりながら、彩響はスマホを反対の耳に当てた。
「亜沙美ちゃんは?大丈夫?」
「良心の欠片が少しは残っているのか、亜沙美には優しいよ。…ごめん、毎回こんな話ばっかして」
「そんなこと言わないで。私くらいでしょ?こんな話できる人」
「そう。本当あなたくらいだわ。…あんたは最近どう?」
「私も特に変わらないよ。いつもどおり」
「なんだ〜あのイケメンさんと一つ屋根の下にいるのに〜面白くないな〜」
「失礼だな。仕事熱心な人にそんなこと言わないで」
「ねえ、本当の本当に何もないの?すごいいい人だったじゃん、あの家政夫さん」
「それは…」
「え〜なんかあるんだね!いいね、やっぱり青春って良いね〜若いね〜」
「あなた…私と同い年だよね?」
確かに、いろいろあった。嵐がやってきて、ボロボロになって、そして…少し成長した。なんとか無事乗り越えたのも、全て成のおかげた。
(改めて感謝しないと…でも、なんか言葉にするのはちょっと恥ずかしいな)
「ああ、あなたのことが羨ましいよ。自由にいろんなことできて、クソ旦那のことで揉めることもないし」
「…あなたには可愛い亜沙美ちゃんがいるでしょ」
「亜沙美のことはもちろん大事だけど、娘が可愛いのと私の人生は別の問題だと思い始めているの。今更だけどね」
(自分の人生、ね…)
軽く言っているけど、友人の言葉は一つ一つ重い。娘に対する責任感で、離婚したくてもできない、ただ我慢する日々。理央は優しい子だからそんなことはないと思うけど…。もし、時が流れ、自分が自由になれなかった理由を娘のせいだと思い、娘を責めたりはしないだろうか。すこし心配になってきた。
「ー彩響、ちょっといい?」
「あら!これ家政夫さんの声?」
タイミングよく、ドアの向こうから家政夫さんの声が聞こえた。その声に気付いた理央がいきなり声を上げ、はしゃぎだす。成がスマホを持ってる彩響を見て、聞いて来た。
「あ、ごめん。電話中だった?」
「あ、うん…」
「あら、彩響!私もう切るから。またね、イケメン家政夫さんにもよろしくね!」
「え?ええ…?理央?理央??」
理央はなぜか電話を切ってしまった。トゥートゥーと聞こえる機械音に、ずっと立っていた成が気まずそうに質問した。
「えーと。今の大丈夫だった?」
「まあ…大丈夫、でしょうね…」
すぐに理央からLINEが送られてきた「頑張れ」というメッセージは取り敢えず無視することにした。あいつ、やっぱり誤解している。
「で、なんだったの?」
「そうだ。な、彩響。これちょっと見てみなよ」
成が手に持っていたスマホを見せる。その画面には彩響の興味を引くような内容が載っていた。
「…小説コンテスト?」
「これ、来月締切だけど、なんとか間に合わせない?」
成が目をキラキラ光らせて、質問する。これは…出て欲しいんだね。彼の意図は伝わってきたが、彩響は首を横に振った。
「いや、間に合うかどうかはさておいて…。私、まだこんなコンテストに出られるくらいじゃないと思うよ」