成が渡したのは、災難にあったTreasure Noteだった。あっちこっちインクが滲み、ページもボロボロになっていて、もうノートとしての機能はなくなっている。それでも必死で治そうとしたセロハンテープの痕跡が切なくて、でも嬉しくてー。胸がいっぱいになり、彩響は必死で涙をこらえた。


「…彩響」


成が隣に座り、彩響の手をにぎる。とても暖かい思いが、その手から伝わってきた。


「今まで辛かったな。でも、大丈夫。もう誰もあんたを責めたりしない。もしお母さんが来たら、俺が真っ先に追い出してやるよ。だから…なんかあったら言ってくれ。話を聞くくらいなら、俺でもできる。むしろ、それくらいはさせてほしい」

「…どうして、ここまでしてくれるの?私はあなたにとって、ただの雇用主、それ以上でもそれ以下でもないでしょう?」

「おい、まだそんなこと言うのかよ。いいじゃん、もうどうだって。一人の人間として、頑張っている人間を応援したいと思うのは別におかしいことでもなんでもないだろ」


そうだ、こいつはいつもそうだった。性別も、職業も、何にもこだわらず、ただ一人の人間として自分を応援してくれる。常に心に余裕があって、なにがあってもブレずに相手を信頼できる。そんな強い心を彩響もずっと持ちたいと思っていた。


「…私、中学生の頃、全国作文大会で優勝したことがあったの」


この話は、辛すぎて今まで誰にも言ってない。理央にも話してない。成は突然の話に一瞬驚いて、でもすぐ話に集中した。


「すげーじゃん。で、なんかあったの?」

「その時は埼玉に住んでいて、授賞式が京大であったから、担任の先生と一緒に授賞式に参加することになったよ。先生は当時まだ新人の若い女の先生で…自分の生徒が大きい賞をもらったことにすごい興奮して、喜んでくれた。でも…」


その日、興奮して家に帰ってきて、授賞式の案内文が載った書類を見せた。一週間後、京都に行きたいから親の許可が必要だと。受賞したことに喜んでくれると思った母は、想像もつかなかったことを真っ先に口から出した。

「なに言ってるの?一体誰なの?あんたをその気にさせたのは?そんな偉くもない賞受けに京都まで行くの?」

「でも、これは全国大会で…」