「そうとは限らない。誰もが最初から作家だったわけではない。物書きは、その人の人生をかけ、徐々に完成していくものだ。だから、ハニーが絶対作家になれないというお母さんの考えは間違っている。今から、いくらでも素晴らしい作家になれる」


(人生をかける、物書き…)


Mr. Pinkの言葉が心の中で響く。もしかしたら、自分にもできるかもしれない。彼がいう通り、自分の人生をかけた、そんな物書きが…。

Mr. Pinkがソファーに戻り、彩響の向かいに座った。彼はとても優しい顔で、慰めるように言い続けた。


「ハニーのお母さんはきっと娘のことを愛していると思うよ。だから自分なりに、自分が最もいいと思う人生を送らせようと必死になっているんだ。だが、それはあくまでお母さんの勝手な考えだ。ハニーは自分自身が望むように生きていけばいい。生んだから、育てたから、娘の人生も夢も勝手にする権利などない。ハニーも、一切の罪悪感を感じる必要はないんだ」

「それは…そう思うように、努力しています」

「そう、必ずしもお母さんに認められる必要はない。ハニーの周りには、ハニーのことを心から心配し、応援し、そして支えてくれる人がいる。もちろん、私もその一人だ」

「ありがとうございます。そう言ってくださって、心強いです」

「そう。だから、とりあえず今は難しいことは忘れて、早く家に帰ったらどうかな?ハニーのことを心から思っている人が、きっと心配しながら待っているよ」


その言葉に、ぱっと誰かの顔が思い浮かんだ。いつも穏やかで、世界一落ち着いているようで、でもいざとなると真っ先に自分のために飛び出てくれた、あのヤンキー家政夫さん。彩響は急いで席から立ち上がった。


「はい、それではすぐに帰ります。ごちそう様でした、そして…ありがとうございました」

「今日は私もとても楽しかったよ、ハニー。又いつでも来てくれ。歓迎するよ。あ、電車の切符代は出してあげるよ」

「はは…すみません、お世話になります」


挨拶を残して、彩響はオフィスを出た。そして急いで駅の方へ向かった。最初は早足で、徐々に早くなり、結局は走りだした。


(早く、早く…!)


早く、成に会いたいー!