「若者の色恋沙汰に私が口出しする権利はないが、それは別れて正解だったと思うよ、ハニー。彼はいい男ではないし、いい旦那になれそうもない。どうも21世紀の人だとは思えない台詞だ」

「さあ、どうでしょう。Mr. Pink、あなたこそ未来からやってきた人かもしれません。私はただ、人生のパートナーになるなら、私が相手をサポートするように、相手も私のことを認めて、サポートしてほしいだけです…」


話を聞いていたMr. Pinkが立ち上がり、オフィスの窓の方へ移動した。彼はすこし町の風景を眺めて、すこし微笑んだ。


「君はとてもいい結婚観を持っているようだね、ハニー。ハニーの考えに積極的に賛成するよ。結婚経験者としてね」

「え…」

(なんか、さり気なくすごい話を聞いたような…)


その「結婚経験者」とはどういう意味なのか、気にはなったが、結局なにも聞けなかった。Mr. Pinkは穏やかな顔で話を続ける。


「誰かが一方的に犠牲になる関係は結局長くは持たない。これは夫婦関係だけではなく、人間関係全般に通用する話だよ。…今のハニーに、いつかいい男が必ずしも現れるとか、そういうお世辞は言わないでおこう。ハニーはもうすでに立派な考えを持つ、立派な成人だ。結婚しなくても、きっと自分で人生の道を探し出すだろう。お母さんのことは気にしなくていい。お母さんとハニーはもう別人だ。囚われる必要はない」


はっきり言ってくれるその言葉に、とても心が癒される。そう、その通りだ。母のことはもうどうでもいい。自分が今したいこと、それは…。


「…私、幼い頃からずっと作家になりたいと思ってました。母はそれをバカバカしいといってましたけど」

「作家になることがバカバカしい?ならノーベル賞を受賞している数多い作家は、全部バカなことをしていると言ってるのか?」


なにを言っても中々感情を出さないMr. Pinkだったが、今回はさすがに呆れたのか、自分のまゆをしかめる。それを見て、彩響は彼も結構な本好きだと気付いた。


「そんな賞を貰っている人は特別な才能を持っている人たちで、私にはそんな才能は全くないと、そう言っています」