「ええ、まあ…そんなことです」

「それは懸命な判断だ。たまにはその状況から自分自身を消すことも必要だ、そうすると冷静に判断できるからね」


そう言って、Mr. Pinkは持っていた本を彩響に渡した。その行動の意味が分からず、ジロジロ見ていると、Mr. Pinkがポケットから自分の財布を出した。


「その本は私が買って差し上げよう」

「え?いいえ、そんな、大丈夫です。後で自分で買います」

「ハニー、これは些細なことだが、私にとってはとても意味のあることだよ。君がこれで少しでも元気を出して欲しい」


数回断っても、Mr. Pinkはそれをまた優しく断る。結局彩響は彼の気持ちを受けることにした。


「では…お言葉に甘えて、ありがたく頂きます」

「受け取ってくれて嬉しい。後で感想もぜひ聞かせてくれ」


計算が終わった後、Mr. Pinkは帽子を被り、本屋のドアまで開けてくれた。もうすっかり暗くなった道で、彼が又提案した。

「実は昨日、中国での出張から帰ってきて、お茶を買ってきたが…一緒に飲んでくれる人がいなくて寂しいと思っていてね。もし時間があれば、寂しい中年男性のお茶会に付き合ってくれないか?」


Mr. Pinkの誘いはとても紳士的で、とても優しいと思った。いろいろと困っている自分に気を遣ってくれているのだろう。それがとても嬉しかった。


「はい、ぜひ、参加させてください、そのお茶会」




Cinderella社の応接室に入り、彩響は言われた通りソファーに座った。しばらくすると、Mr. Pinkがお盆にティーセットとパウンドケーキを乗せ入ってきた。とても美味しそうなそれを見て、彩響は今日自分がなにもちゃんと食べていないことに気がついた。


「このアーモンドケーキも中国から買ってきたものだよ。お茶との組み合わせが良いって、店員にお勧めされてね」

「ありがとうございます。いただきます」


甘いケーキと少し苦いお茶を飲むと、少し緊張が解けるのを感じる。気持ちいい香りを感じながら、彩響はすぐケーキを食べ終えた。残りのお茶をゆっくり飲んでいると、向き合いのソファーからMr. Pinkの視線を感じた。我を忘れもぐもぐ食べていたのが少し恥ずかしくなり、彩響はアンティークカップをテーブルの上に戻した。


「さて、なにから逃げ出してきたか、教えてくれるかい?」


一瞬迷ったけど、彩響は素直に答えた。