そのまま母のところに突撃し、母を思いっきり突き飛ばした。突然の行動に、成の目が丸くなる。床に倒れた母が悲鳴を上げた。

「なーなにするのよ!」

「お母さん!お母さんと違って、私には心があります。あなたのように残酷で血も涙もない人間、もう知りません!もう二度と私にかかわらないでください。お願いだから、私の人生から消えてーーー!」


そのまま、彩響は家を飛び出てしまった。後ろから一瞬成の声が聞こえたが、全部無視してとりあえず走り出した。

もう、誰にも会いたくない。誰とも話したくない。

どこか、一人になれる場所。それがどこなのかも分からず、彩響は必死で走った。




しばらく走って、走って、立ち止まる。息を整えて、又走る。それの繰り返しをしていると、いつの間にか周りが徐々に暗くなってきた。沈んでいく太陽をじっと見つめ、彩響はさっきの出来事を考えた。

きっと、お母さんは絶対謝らない。自分なりの愛情だと言うに違いない。もう二度と関わりたくない。あの狂気あふれる目を、思い出すだけで吐き気がするー。


(それにしても…)


さっきの成の反応には大分驚いた。普段ニコニコとお人好しでいた分、いざブチ切れて暴言吐き出す姿は結構衝撃的だった。実はさっきの姿が本来の姿で、いつものは偽りだったとしても…。


(私のために、あれだけ怒る人は初めて見たな…)


いつでも自分の味方になってくれると信じていた母は、なにかある度に真っ先に彩響を攻めた。社会に出てからも、大抵のことは自分から謝るばかりで…。だから成の反応はとても新鮮でー


(とても…ありがたかった)


ふと見慣れた看板が目に入り、彩響は足をとめ周りを確認した。いつも通っている、会社と近い書店だ。一瞬別の店舗かと思ったけど、彩響はすぐ自分が家からここまで、6駅分の道を歩いてきたことに気付いた。道理で足が痛いわけだった。彩響はしばらく悩んで、書店の中へ入った。

「いらっしゃいませー」


店員の声を聞きながら、小説のコーナーに入る。タイミングよく、「本木健」の新刊が見えた。彼は大物作家で彩響も好きな作家だ。新刊を手に取り、中身を軽く捲ると、以前成と一緒にここに来たことを思い出した。


ー「何買うの?」

「特には決めてないけど…ここ、好きなんだよね。昔は大きくなったら小さい図書館を家の中に作りたいと思ってた」

「へえー本当に好きなんだな、本」