「私が、選びたい家政夫さんは…」

自分の選択を待っている4人の男たちを順番に見回す。ふと、彩響の頭にある風景が思い浮かんだ。それは、自分の家のリビングだった。

仕事から帰ってきたら、ゴミ屋敷とほぼ変わらない空間。せっかく大金をはたいたマンションなのに、全くいいところに住んでいる実感がしない。しかし化粧を落として掃除までする余裕はどうしても作れない…。ここまで考えた彩響は、「彼」を指名した。


「河原塚(かわらづか)さん、あなたがいいです。」

「お、ナイスチョイス!」

河原塚さんが大きい笑顔を見せる。他の人達はちょっと残念そうだけど、特になにも言わない。隣に立っていたMr. Pinkが一歩前に出た。

「河原塚くんか、いい選択だよ、ハニー。彼は昔から優秀でね、きっとハニーの役に立つよ。」

「そうです、峯野さん。成(せい)なら間違いないでしょう。ほら、林渡。さっさと行きますよ。そんなに不満そうな顔しないで。」

「ちぇー絶対俺だと思ってたのに。全く、見る目が無いなー」

「お騒がせしました。では、俺達はこれで。」


三和さんと今瀬さんに引っ張られ、雛田くんは部屋を出た。河原塚さんが嬉しそうな顔で近づいてきた。


「じゃあ、早速行けば良いんだろう?」

「あ、そうです。荷物があるなら一緒に持っていっても…」

「俺はバイクで行くから。じゃあ、また後で!」


元気よく彼が事務所を出ていく。一瞬ビクッとする彩響に、Mr. Pinkが声をかけた。


「さあ、ハニーの新しい人生の始まりだ。これから君の生活はきっと大きく変わる。いまこの選択が、ハニーの人生にとって最も意味のあることだったと振り返る瞬間が来ることを祈るよ。」

「はあ…ありがとうござい…ます…?」


なにをそんな大げさに言うのか、ただ家政夫さんが家で仕事をするだけなのに。

Mr. Pinkと握手をして、外へ出て、自分のマンションに向かうその瞬間まで、彩響は全く想像もしていなかった。


これから自分に何が起こるかを。