目を開けると母さんがバックミラー越しに笑い掛けた。

「随分疲れてたのね。」

「うん、文化祭の準備が忙しくてさ。」

大きく伸びをしてカチコチに固まった体をほぐすが、後部座席という限られた空間ではそれも中々難しい。

それどころか、また睡魔がじわじわと思考を鈍られていく。

「なんかさ…大事なこと、あったと思うんだけどさ…思い…出せないや…」

重くなっていく瞼が落ちながら、雨足が強くなっていく窓の外を見れば、雷が空を切り裂く音と共に辺りを強く照らした。

一瞬、光った窓に自分に似た別の誰かが映ったような気がしたけど、きっと現実と夢の狭間を行き来しているからそんなモノを見たのだろう。

「思い出せないなら思ってた程大事なことじゃなかったのよ。家に着くまでまだ掛かるからもう少し寝てなさい。」

「うん…そうする…」

睡魔が僕を引きずるように無理矢理夢へと連れていく。

母さんが何か言っているみたいだけど、声が遠くて何て言っているのか分からないや…

それよりも、大事なことが気になって仕方がない…

ああ…気になるな…

大事なことってなんだったんだろ…