吸血鬼くんと、キスより甘い溺愛契約〜無気力なイケメン同級生に、とろけるほど愛されています〜




「会長が奥でお待ちなので中にどうぞ」

「あ、失礼します……!」


奥に案内してもらうと生徒会長と書かれたプレートが置いてある机の前に、すでに何人かの生徒がいた。


「会長。皆さんおそろいになりました」


漆葉先輩がそう言うと、反対側を向いていたイスがくるっと回転して、生徒会長さんが姿を現した。


「ありがとう、恋音」


にこっと笑った顔は、とっても優しそうで声のトーンもすごく落ち着いている。


さらっと揺れる明るいミルクティーベージュの髪色と、完璧すぎる顔立ち。


顔のパーツどこを見ても欠点がない。


雰囲気からして、性格もとても穏やかで優しそう。

すごくモテそうだし、憧れている人も多そう。




「さてと。それじゃあ、あらためて入学おめでとう。わざわざ生徒会室まで足を運んでもらって申し訳ないね」


相変わらず口角をあげて、笑顔を崩さないまま。



「単刀直入に言うと、今日ここに呼んだのはキミたちが特待生に選ばれたから。学年で人間から3人、吸血鬼から3人。毎年総合的に見て選ぶことになっているんだ」


今この場にいるのは、わたしと音季くんを含めて全員で6人。



「入学試験の結果と、契約していることを条件に選ばれたのがキミたち。この6人を特待生にするっていうのが決まったから、今日はそれの報告かな」


神結先輩がそう言うと、すぐに漆葉先輩が全員に四角い小さめの白いケースを手渡した。


「それは特待生の証でもある特別な校章。他の生徒とは違うから、キミたちにはこれをつけてもらうことになる」


ケースを開けたら、桜の校章が入っていた。


パッと見た感じ、今つけているものとそんなに変わらないような。


あっ、でもクリスタルみたいな石が真ん中に埋め込まれている。




そして、特待生としての条件が説明された。


特待生として定期的に行われるテストでは、常に上位10位以内をキープするのが、絶対条件らしく。


そのかわり、話に聞いていたように特待生である限り学費は全額免除。


おまけに、学園で生活するうえで必要な費用なども、ぜんぶ学園側が負担してくれるらしい。



「あとは、吸血鬼も人間も契約を解除した時点で特待生からは除外されるから気をつけてね」


つ、つまり……音季くんと契約を解除しちゃったら、わたしは学費が払えなくて、この学園にいられなくなる……ということ。



「それじゃ、キミたちには期待しているから今以上にもっと頑張ってね。何かあれば、いつでも生徒会に相談に来ることも可能だからね」


紅花学園での生活はスタートしたばかりだけど、どうやら大変なことがたくさんありそうな予感。




紅花学園に入学してから2週間くらいが過ぎた。


音季くんは、すっかりわたしに懐いたみたいで。


たぶん、身の回りのことをぜんぶやってあげたりしているからかな。


普段の音季くんは面倒くさがり屋なのか、何をやるにもだるそうで、つまらなさそう。


それにいつも眠そう。


音季くんみたいな無気力さんを、ひとりにしておいたら大変なことになっちゃう。


だから、放っておけなくて。


学園や寮にいるときも常に一緒なので、気づいたらなんでもやってあげるようになってしまった。


おまけに、音季くんは猫みたいな性格だから気まぐれなところもあったり、ふたりっきりになると甘えてきたり。


隙があれば、わたしにベッタリしたまま。


これはぜんぶわたし限定で、他の人には全然興味なし。




「ねー……真白。ちょーだい」

「あわわっ、今はちょっと待って」


「んー、待てない無理」


血を欲しがっているときは、いつもよりちょっと強引。


今だって寮に帰ってきたばかりなのに、部屋に入った途端に首筋に唇を這わせてくる。


「ブラウス汚れるから脱がしていい?」

「いつも汚れたりしないのに?」


「……いいから」


後ろからだっていうのに、器用にブラウスのボタンをスイスイ外していっちゃう。


ネクタイだって、簡単にゆるめられちゃう。


慣れたように首筋にかかる髪をどかして、何度もキスを落として噛むところを探ってる。




「ぜんぶ脱がすまで我慢できない」

「ひゃぁ……っ」


ブラウスを肩のところまで下げられて、ちょっと脱がされている状態のまま……いつものチクッとする痛み。


前よりは痛みの感覚が鈍くなってきたのか、そんなに強く噛まれない限りは、あまり痛くない。


ただ、血を吸われたあとは、眠くなったり貧血気味になったりする。


「ん……っ……ぅ」

「真白いつも可愛い声漏れてんね」


「うぅ……よくわかんないけど声出ちゃう……っ」


噛まれるというより、首筋に音季くんの唇があたるのがくすぐったくて、身体が変な感覚になるせい。


「……かわいーね」

「へ、変だからあんまり聞かないで……っ」


「どこが変なの? もっと聞かせて」


甘くて、ちょっと強い刺激に慣れるまでは、まだまだ時間がかかりそう。




そんな日が続いたある日、初めての特別授業が行われることに。


契約をしている吸血鬼と人間に向けたもの。


いったいどんな授業なんだろう?と思いながら、教室が移動になるので行ってみたら。



「な、なんで授業を受けるのにソファなんだろう?」

「……さあ」


教室のど真ん中に、大きなスクリーン。

中は映画館みたいな薄暗さだし。


ふたりで座ったら、ちょうどよさそうなサイズのソファが6つあって、前に3つ後ろに3つ置かれている。


みんな契約してる同士で座っていくので、わたしたちも後ろの端っこのソファに座ることに。



「はーい。それじゃあ、授業始めるわね」


教室に入ってきた、白衣を着ている美人な先生。


授業が始まる前に、簡単な自己紹介があった。


この授業を担当するのは、学園の養護教諭もやっている高嶺(たかみね)先生。




「とりあえず、この資料を配布するから軽く目を通してね。いちおうスクリーンにも、同じ資料を映しながら説明していくから」


配られたプリントには、吸血鬼についての基礎知識とか。


吸血鬼と人間の契約についてのことや。

正しい吸血行為の仕方……などなど。


「それじゃ、授業を進めていくわね」


最初に軽く吸血鬼について説明された。


吸血鬼は人間と見た目はそんなに変わらないし、人間と同じような食事をして、同じように年を取るんだとか。



「では次に、吸血鬼と人間の契約について詳しく説明していくわね」



契約していない吸血鬼は、相手が人間であれば誰の血でも吸うことができるけど、契約している吸血鬼にとってそれはやってはいけないこと。


理由は契約をしたときに、相手の人間の血を身体に流し込んで、その血しか受けつけないようになっているから。



だから契約をしたら、吸血鬼は他の人間の血を飲めなくなり、飲んだら命を落としてしまう。


ここまでは、ほとんど音季くんから聞いていたとおり。




「では、なんらかの理由で契約している人間が血をあげられない状態になった場合。そういうときのために、輸血用のタブレットがあるの」


錠剤のようなものがいくつか入っている、小さな四角い透明のケースが配られた。


「吸血鬼はもちろん、人間側もこれは必ず持ち歩くようにしてね。いつ何が起こるかわからないから」



これを飲むと吸血したときと同じ効果があるらしくて、契約している人間が血を与えられない場合の、吸血鬼にとってのライフラインになる大切なものみたい。



「ただし、吸血鬼側の出血が多量の場合は、これだけじゃ対応できないから、すぐに輸血してもらうこと。医務室には輸血用の血がストックしてあるから」


輸血用の血に関しては、特殊な作り方をしていろんなものが配合されているので、身体に取り込んでも問題ないとのこと。


そして、万が一すごく大きなケガをしてしまった場合は、医務室や集中治療室で治療を受けることもできるみたい。