唇に触れてる熱と、口の中にある熱と。
いろんな熱が、かき乱してくるせいで頭の芯がジーンとしてくる。
今までに感じたことのないものに襲われて、どうしたらいいかわかんない……っ。
でも、触れてる唇が優しいから……怖い気持ちはどこにもなくて。
「……あと少しね」
「ん……っ」
唇が離れたと思ったら……今度は首筋にキスが落ちる。
慣らすように舌で軽くツーッと舐められて――。
「……もうちょっと我慢して」
最初は一瞬チクリと痛くて……そのあと一気に襲いかかってくる痛み。
首筋を強く噛まれて、身体の中で何かが吸い取られていくような感覚。
次第に自分の力で身体を支えるのが難しくなって、フラッと音季くんのほうへ倒れ込み、すべてをあずける。
「……ん、できた」
鼓膜を揺さぶるように、そんな声が耳元で聞こえる。
ゆっくり身体を離されて、お互いの目線が絡む。
「これ契約の証ね」
「……?」
音季くんが、わたしの左手首にピンクゴールドのブレスレットをつけてくれた。
「契約した相手に、あげるのが決まりなんだって。だから、真白はこれつけててね」
そんな決まりもあるんだ。
何もかもが経験したことないから、戸惑ってばかり。
「これで真白は俺のになったね」
まさか自分が吸血鬼と契約したなんて、いまだに実感がなくて。
音季くんも、こんな簡単に契約しちゃって、ほんとによかったのかな……。
そ、それにさっきキス……しちゃったし。
契約のためとはいえ、はじめてだったのに。
「……顔真っ赤」
「う、あ……、や……っ」
思い出したら、ブワッと熱がこみあげてくる。
「どーしたの。さっきのキス思い出しちゃった?」
「へ……っ!?」
「慌てすぎ」
「だ、だってキスしちゃった……んだよ?」
「そーだね。真白の唇やわらかかったよ」
「う……っ、それはどうでもよくて……!」
なんで音季くんは、こんなに冷静なの!
「もしかして、はじめてだった?」
「う、うん……」
「へぇ……。じゃあ、これからも真白のはじめて、ぜんぶ俺がもらうかもしれないね」
どうやらわたし、ちょっと危険な吸血鬼に出会ってしまったみたいです。
契約してから半日経って、超スピード展開で、音季くんと同じ寮かつ一緒の部屋で過ごすことになった。
わたしも音季くんも、それぞれ女子寮、男子寮に入る予定だったので、急いで特別寮に変更してもらう手続きを音季くんがやってくれた。
そして、無事に入寮の手続きが終わって寮の部屋へ。
「わ……っ、部屋もすごく広いんだぁ……」
ちょっと探索してみようと思って、ひとりで部屋の中をグルグル。
音季くんは、部屋の奥のほうへ。
個人の部屋は、ないみたいだけど。
寮の部屋だっていうのに、キッチンがすごく広い。
寮の中には食堂もあるから、そこで食べてもいいし自分で作ってもいいみたい。
奥にあるお風呂も、寮とは思えないほど綺麗で広い。
さ、さすが紅花学園……。
学生寮なのに、設備がすごすぎるよ。
と、というか流れで音季くんと契約しちゃったけど、これからふたりで生活していくんだよね?
よく考えたら、ものすごい展開になってるような。
うぅぅ……今さらだけど、男の子とずっと一緒なんて大丈夫かなぁ。
数時間前のわたしじゃ、ぜったいに考えられなかったよ。
今ですら契約した実感もあまりなくて、まだ現実味を感じられてないのが本音。
「……真白は、どっちがいい?」
「え?」
ひとりでボケッとそんなことを考えていたら、音季くんがこっちにおいでって手招きしてる。
そばにいってみたら。
部屋の奥……窓のそばに置かれているベッドがふたつ。
ベッドとベッドの間は、そんなにあいていなくて、薄いカーテンみたいなので軽く仕切られているだけ。
「ベッド。どっちで寝たい?」
「え……あ、わたしはどっちでもいいよ」
「もっと奥の別の部屋に、ふたりで寝れるサイズのベッドあるみたいだけど」
「へ……」
「せっかくだから、そこで一緒に寝る?」
「ね、寝ません……っ!」
音季くんって、冗談言わなさそうな顔してるのに、さらっとそういうこと言うから要注意だよ!
「……あ、そーだ。俺も部屋に荷物持ってこないと」
そっか。音季くんは、もともと人間と契約するつもりなかったんだ。
わたしとは違って、数日前に入寮の手続きをすませて、男子寮に荷物を運んでるみたいで。
「ご、ごめんね。荷物の移動とか大変だよね。よかったらわたしも手伝うよ……っ!」
「……いーよ。真白は自分の荷物片づけてなよ」
そう言って、音季くんは部屋を出ていった。
とりあえず、生活に必要なものだけを持ってきたので、キャリーケースから取り出して、片づけたら意外とすんなり終わった。
音季くんは、なかなか戻ってこない。
そういえば、特別寮は他の生徒がいる寮とかなり離れた場所にあるって音季くんが言っていたから。
「わたし迷惑かけてばっかりだ……」
出会って早々こんなわたしのために契約までしてくれて、そのおかげで自主退学は免れたわけだし。
せめて何かできることないかなぁ……と考えた結果。
「よしっ、何か作ろう」
せっかくなので、晩ごはんを作ることにした。
音季くんって、好き嫌いとかあるのかな。
というか、そもそも吸血鬼って人間と同じもの食べるのかな?
とりあえず作ってみようと、冷蔵庫を開けてみたらびっくり。
「う、うわ……食材とかもぜんぶ揃ってる」
必要そうな食材や飲み物が豊富に用意されていた。
さ、さすがお金持ち学園……。
何もかも想像を超えてるよ。
家から持ってきたピンクのチェック柄のエプロンをして、料理にとりかかることに。
簡単に作れるのと、定番のカレーライスにして、あとはサラダでいいかな。
手早く準備をしていると、音季くんが部屋に戻ってきた。
「……なんかいい匂いする」
「あっ、いま晩ごはん作ってて。えっと、音季くんは、わたしと同じもの食べられるのかな?」
「吸血鬼もフツーに人間と同じ食事するよ。まあ、血がないと生きていけないけど」
「そ、そうなんだ」
まだまだ知らないことがたくさん。
「……で、何作ってんの?」
背後に立って、わたしの肩に顎をコツンと乗せて鍋の中を覗き込んでる。
「ひゃっ、あの……っ、近い……っ」
「んー……?」
わたしが言ってることはスルーして、お構いなしに距離を詰めてくる。
「と、音季くん……っ」
「これ、髪まとめてるのいーね」
「へ……っ?」
「ゆらゆら揺れてる」
「ポニーテール……です」
胸より少し上くらいに伸ばした髪は料理するときは、まとめたほうがいいかなって。
「首筋見えると噛みたくなる」
「か、かみ……っ!?」
「また夜……寝る前にちょーだいね」