びびびびびび


なんでこんな音の目覚ましを買ったのだろう。

「…ゆかちゃん、今日は休みじゃなかった?」

隣で、苦しそうに目覚ましを止める太一がいた。

そうだった、昨晩も太一は我が家に泊まったんだったっけ。

おばあちゃんのおかずはなんだったか、数時間前のことなのに思い出せない。

冬の野菜、冬の野菜…

そう考えながら、脳みそはもう一度眠りに就こうとしていた。

「いつまで、あんな男と続けるの」

体がびくっとなる。

理絵ちゃんと久しぶりに会ったあの日から一週間たつが、時々この言葉が頭をよぎる。

できそこないの、“あんな男”は、私の横で眠っている。

太一が、世間的に“あんな男”と言われるわけは、いくつか考えられる。というか私もわかっている。

おばあちゃんと二人暮しで、さほど儲かっていない八百屋をしていてお金は持っていないし

車もないし、服はいつも同じ。

高校を出てからそんな生活を六年も続けているのだから、世間的には“あんな男”なのだ。

就職することなく『ミュージシャンになる』という曖昧な夢を持っていた18歳の私と、そんな太一が出会って恋という不思議な感情を抱きだして、そろそろ五年がたつ。


できそこない同士、同じ歩幅で歩けているんだよ。

どうして、誰かがそれを止めようとするの。


結局私は、そのまま眠れずにいた。