遠距離恋愛になったところで、私たちはうまくいくはずがない。

そんなことは二人ともわかっている。
淋しいときに手に触れられる誰かを欲しがる二人だから、遠くにいる恋人に思いを寄せるなんてできやしない。
そんなことは、わかっている。

私が選んだ、これ、は太一との別れなのだ。
弱虫だから、別れようなんて、どちらも言えないでいるだけなのだ。


汽車の中で食べなさいって、おばあちゃんは大学芋をタッパーにつめてくれた。

タッパーの上にポチ袋がくっついていて、中に五千円入っていて、申し訳なくてしゃくりあげるまで泣いた。


泣いてしまった私を、最後に太一がバス停まで送ってくれた。
太一に託した自転車の後ろに乗ってギコギコ走る間、私は泣き止んで、鼻水だけをすすっていた。


「ゆかちゃん、好きって言ったら怒る?」

「叩く」

「行かないでって言ったら怒る?」

「叩く」


バス停にはよく見る顔が何人かいて、臆病な私たちは、抱き合ったりキスしたりすることなく、ただ立ってバスを待った。

「ゆかちゃん好きだよ行かないで」

震える声でそう言うと、太一は手で頭をかばった。

泣くのをぐっとこらえて、その上から太一を2発叩いたら、お迎えのバスがやってきた。

「新幹線乗ったらすぐ寝ちゃいそうだわー。ついたらメールするから、じゃあね」

まともに顔が見れない。見れるわけがない。


バスに乗り込む私に、太一は泣きながら言った

「おやすみ」