すべてを角張った箱につめてしまうと、この部屋はすごく広く感じられる。

普段からこうやって生活してたら良かったなんて今更馬鹿げたことを思う。

畳の色は変色し、壁は寝ながらひっかいた跡がいくつか残っている。

愛着なんてもの、沸いてはこなかったけど、やっぱりこんな部屋でも別れるのは淋しいもんだ。

すべての荷物をつめ終わり、大体の手続きは済ませた。
本当にこんなにあっさり出戻っていいのだろうか。

母親は、あきれたと笑っていたが、本当はすごく嬉しそうだった。
私がいなくなって、悲しむ人もいるけど、戻ってきて喜ぶ人も沢山いる。

またすぐ慣れる。

アパートを出て、出発前夜は、太一の部屋に泊まった。

おばあちゃんは私が泊まることを知らなかったようで、晩ご飯を用意してなくて申し訳なさそうにしていた。

おいしそうな唐揚げの匂いを嗅ぎながら、パン屋の店主のくれたパンを食べて、やっぱり半分は猫にあげた。

明日、ここを出るなんて実感がわかない。
しおらしく、これまでの思い出を思い出してみようとしたけれど、明日のことばかりが頭をまわった。


おばあちゃんは何度も
「汽車に乗ったらすぐ会いにこれるね」
と繰り返していた。


眠る前、太一にくっついて、何度もキスをして、少しだけ泣いた。