太一は、CDを持ってきただけですぐ帰っていった。

私しか感じていないだろう距離が、少しだけ遠くなる。
部屋には扇風機のプロペラの音と、鼻水をすする音だけがくるくるさまよっていた。

私には、なんもない。

ただ何となく、この町でくすぶって、大事な家族に迷惑と心配だけかける生活。

手をつないで眠ってくれる恋人に、甘えて生きてこうったってそうはいかない。

25歳になって、まだこんなことで泣いてる自分を客観的に見て、冷めてしまった。

携帯電話を握り締めて、震える声が距離をこえる

「お母さん、私帰っていいかなあ」