理絵ちゃんから電話がかかった。

正確には、着信が三つ残ってた、だけど。

付き合っていた彼氏が転勤になるから、ついていきたいと言っていた。

“私の人生には彼氏が必要で今ついていかなかったら後悔するに決まってる”んだそうだ。

決まってることなんて何一つない。

ただ一つ言えるのは、60年くらいしたら死ぬに決まってる。それだけ。

電話をきって、外を見たら、空が雨を降らしたがってくもっていた。

雨が降る前に、自転車をギコギコ漕いだ。

店についた頃に雨は降りだして、あわてて太一の部屋に駆け込む。

無音の部屋で、太一は帳簿をつけていた。不器用な手つきで電卓を叩き、ノートにみみずを這わせている。

何か話し掛けようと口を開きかけたとき、太一はペンを止めた。


「ばあちゃんがいなくなったらって考えるようになった。ひどいかな?」

「仕方ないよ。」

以前はあんなにまくしたてたのに、うまく言葉が出てこない。

太一が見つめ始めた現実の話を、静かに聞いた。


話しながら太一は寝転んで、最終的には寝てしまった。
私は雨のなか、自転車を走らせた。


最後に太一は
「ばあちゃんいなくなったら、ここにいる意味なんてない」
そう言ったんだ。

顔をつたう水は、無機質な6月の雨。