ガラガラ、ガラガラ、音は近づいてきた。
ガラガラ、ガラガラ。

「あれ、ゆかちゃんだ」

野菜を乗せる台車に、膝掛をしてちょこんと座るおばあちゃんと、それを押す太一。

あまりに滑稽な光景にぎょっとして、声も出ない。

「今日は靴下屋さんじゃないの?こっそり行こうと思ってたのに。」

おばあちゃんと太一は、残念そうに笑った。

台車に乗ったおばあちゃんは、キャベツみたいなカーディガンを着て、頬が真っ赤でトマトみたいだ。

バス停でバスを待つ人々が、くすくす笑っている。

「何やってんの二人ともー…」

笑えてきて、泣けてきた。

「ちょうどいい乗り物があったんだもん、これならゆかちゃんの靴下屋さんまで行けるかなあって」

私が守るべきものは、見えない未来への期待でも、創られた幸せの予感でもなくて

ここにある現実。手のなかにある生活。

野菜みたいになったおばあちゃんと、できそこないの恋人。

“ごめんなさい”と告げて、輝かしい二年後の旦那とバスを見送った。


太一と二人で台車を押して、おばあちゃんが行きたがっていたお蕎麦屋さんに行った。

美味しくなくて二人は無言だったけど、おばあちゃんだけは何度も「おいしい」と笑っていた。