ホワイトデーという文化は、太一にはないらしい。

それに気付いたのは太一と迎える二度目のホワイトデーの時だった。

初めてのホワイトデーは、“忘れてるのかな?”で終わり、二度目には“あぁ、そういう文化がないのね”と気付いた。

それでも1ヶ月前のバレンタインデーには、しおらしくチョコレートを渡すのだ。

今年も、何事もなかったかのように14日は終わっていった。

ただ一ついつもと違ったことは、思いも寄らぬお返しがあったことだ。

閉店時間に店の締めを行って、ショッピングモールを出たら、見覚えのある男が立っていた。
そして、この前は突然お邪魔してごめんだとか、居にくい空気にしてごめんだとか言って、小さな紙袋をくれた。おそらくユウキくんだ。

正直迷惑だと思ったけれど、誠実さに負けて受け取ってしまった。

不思議なホワイトデーのクッキーは、お洒落の味がした。

それを食べることに罪悪感を感じてしまってはいけない。

帰り道、野良猫の集団に残りのクッキーをあげた。