私は首を傾げる。

「大聖女というのは、聖女の中でも特に神聖力が強い者を指す言葉だ。これまでのアリスベンの歴史上でも、大聖女と呼ばれるほどの力を持っていた聖女は片手で数えられるほどしかいない。もちろん、今現在も存在していない」

 イラリオさんが教えてくれた。
 ちなみに、チェキーナ大聖堂に描かれた初代聖女は大聖女だったそうだ。

「大聖女はいないんだから、元に戻すことは実質無理ってことだな」

 イラリオさんはふぅっと息を吐く。

「話は戻るが、その〝世界樹の実〟を見つけ出せれば、ブルノ大司教の治療薬が作れるのか?」
「薬に神聖力の力を与えるためには、材料を揃えるだけではだめだ。調合する者が十分な神聖力を持ち、調合しながら神聖力を付与する必要がある」
「つまり、調合する人間は強い神聖力を持ったものでないとならないと?」
「その通りだ」

 リーンは頷く。

(あ、だから──)

 それを聞いて思い当たることがあった。

 伝説のエリクサーは聖女のみが作ることができ、その作り方を他の薬師が真似ても同じものを作ることはできなかったという。だからこそ〝聖女の奇跡の薬〟とされていた。けれど、実際には真似した薬師達に十分な神聖力がなかったから作れなかったのでは?