【真新しい写真】
歩く途中老婆は、
小さな声でご主人に
何か一言伝えたように
みえた。

マスターは黙ったまま
うん、うん、と
うなずいた。

手にした写真を
大事そうに
持ってくると、
老婆が達也に
こう問い掛けた。

「しかしおまえさん、
久しぶりだね〜 、
どうしてたんだい?」

額縁を大事に
抱えたまま、
”向かい”のいすを
少し引いた老婆。

雰囲気のある店、
親のように優しい
眼差しの老婆。
暖かく包む空間に、
達也は心を自然に開く。

「いろいろありまして
……だけど…
あの時のままなんです
………」

そう多くは
語らなかった。
いや、それしか
語れなかった。

「それは君だけだとおもうかね?」

今まで無言だった、カウンター越しのマスターが、一言背を向けたまま、突然つぶやいた。

「…………」

沈黙を切り裂くように、老婆がかかえていた額縁を、そっと、ゆっくりと達也の前に置いた。

「………!えっ?」

それは、あの日と変わらない麻美、いや幾分ほっそりとした彼女だった。寂しそうに遠くを見ついるその姿は、水色のワンピース、白いむぎわら帽子を纏っていた。

特に水色のワンピースが赤く見えるほど、夕日に染まっているのが印象的であった。

「去年の夏の事だよ」

カウンターを出て、歩み寄るマスターがささやいた。

なぜ?

達也にはなにも考えることが出来なかった。

「君だけじゃないんだよ」

マスターはそういうと、写真のなかの彼女に  優しい笑みを浮かべた。