「星はね、月の涙でできてるんだ」


夜中にこっそりと忍び込んだプールで、ナナはそう言った。

「でも誰も気がつかない。手に触れられないほど遠いから、知ったって涙を拭けるわけじゃないから、誰も気に留めたりしないんだ」

本当は触れるのにね。ナナが伸ばした白魚のような指先は、プールの水を纏ったまま空に触れた。滑り落ちた水滴が月光を呑み込んで、ナナの端正な顔を濡らす。
僕は並んで浮かんでいるナナが泣いているような気がして、ナナと同じように手を空に伸ばすと、夏なのに冷たいプールの水を浴びた。
そうして不器用な子供騙ししかできない自分に、少しだけ失望した。