『ごめん、具合が悪くなっちゃって。先に帰ってて』
みんなにはメッセージを送って、私はしばらく更衣室にいた。
泣き止んでも、きっとまだ鼻も目も赤くなっていて、泣いたことがバレてしまう。
少ししてそろそろみんな帰ったであろう頃に、更衣室を出た。
頭がずきずきと痛み、眉を寄せる。久しぶりに泣いたから今まで溜まっていた鬱憤が一気に流れ出たみたいだった。
スマホを見ると、部のみんなからはスタンプで返事が来ていた。
ウサギのキャラクターが『大丈夫?』と言っているものの、誰も一文字も打っていない。
薄っぺらい私たちの関係が浮き彫りになっているみたいで乾いた笑みを漏らす。
疲れて重たい体を動かしながら、とぼとぼとした足どりで昇降口へ辿り着いた。
幸い他の生徒の姿はない。誰とも会わないうちに早く帰ろうと靴を履き替えて、駐輪場へ向かう。
けれどなんとなく自転車を漕ぐ気にはなれなくて、引きながら歩き始める。
日は暮れ始めていて、風は生温い。
こんな天気のいい日なのに、私の気分は最悪だ。
「金守」
声をかけられて振り返ると、そこには男の子が立っていた。
「久しぶり……でもないか一学期ぶり? いやでも金守と話すの一年ぶりくらいかも」
記憶の中では明るめの茶髪だったけれど、今は黒髪になっている。
それに私服姿は初めて見た。少し大きめの白いTシャツにはAZSという文字が装飾されていて、たしか姉が好きなアーティストと同じロゴマークだ。そして下は黒のチノパンというラフな格好。
以前との違いはあるものの、くっきりとした二重と右目の下にある黒子が印象的で髪色が変わってもすぐにわかった。
「……柏崎くん」
なんでよりにもよって知り合いに会ってしまうのだと、顔を硬らせる。
私と柏崎くんは、高校一年の頃に一緒のクラスだった。
だけど彼は最近不登校になってしまったと噂されていた。