「ごめんね。気を悪くした?」
「……え、っと」
「今までいた生贄がいなくなっちゃったから、これからが大変だね」

人ごとのように話す常磐先輩の眼差しは酷く冷めていて、今までの温厚な姿が嘘のようだった。


「あ、責めているわけじゃないの。グループ内での役割ってあるもの」
「やく、わり……」

それならきっと女子バスケ部の二年は、まとめ役ではなく〝押し付け役〟が必要なのだ。

やりたくないことを押し付けて、裏で好き放題に陰口を叩く。そして〝褒める役〟〝同調する役〟も同時に必要だった。


今まで私は〝褒める役〟と〝同調する役〟でみんなの機嫌取りをしていたのだ。

「すごいね」「さすがだね」「あたしにはできないよ」とみんなを持ち上げて、自尊心を満たす役割だった。だけど〝押し付け役〟に欠員が出たから、私がそちらに回されるのだ。


「大丈夫よ。だって杏里ちゃんは今までうまくやってきたじゃない」
常磐先輩は着替え終わると、すぐに更衣室から出て行ってしまう。私はその場にしゃがみこんで、自分の体を両手で抱きしめる。

怖い。これから私はどうなってしまうのだろう。
みんなに、どう扱われるのか想像するだけで、腹部に不快感の塊のようなものが浮遊する。


『杏里は馬鹿なんかじゃないよ』

——そうだ。
あの日『杏里はさ、要領が悪くて得してるよね。ちょっとお馬鹿で抜けてるのが愛嬌っていうかさー』そう言われた後に、帰り道で優しく慰めてくれた。


〝大好き!〟そう私が言うと、彼女も同じように返してくれる。


『私も、杏里のこと大好き』

私を唯一馬鹿にしなかったのは、一番傷つけて犠牲にした朝葉だった。
好きだった気持ちは嘘じゃないのに。いつからか下に見て、都合のよく押し付けて、自分に被害がないことに安堵していた。


涙がこみ上げて、嗚咽を漏らしながら下唇を噛み締める。


どうしていつも私は、考えが足りていなくて間違えてばかりなんだろう。

保身ばかりで、自分の言動で誰かを傷つけて苦しめていることをきちんと考えられなかった。


なにもかもが今更遅くて、この場所から抜け出す方法がわからない。


————そして再び涙が頬に伝ったとき、なにがかが壊れるような音がした。