「私、周りにばかり変化を求めてたかも。それなのに、自分は本音を言うのが怖かった。酷い言葉を言っちゃいそうで……」
「本音を言うのが怖いなら、なるべく相手が傷つかない言葉を探して伝えればいいと思う」
「……うん」
「それは家族に対してだけじゃなくて、友達に対しても」

家に篭るようになって、どんどん感情がマイナスの方向へ向いていった。
人間関係なんてどうだっていい。このまま学校辞めちゃおうかな。そんなふうに全てを投げたくなる日もある。

私のことを大事にしてくれないのなら、理解してくれないのなら関わりたくない。
でもそれをしてしまったら、きっとどんどん傍にいてくれる人は減っていって、最後にはなにも残らなくなる気がした。


周りに理解されない。
そんな不満を抱えていたけれど、私も誰のことも理解しようとしていなかった。


「私……どうしたら……っ」
「まだ金守は間に合うよ。だから、ちゃんと自分の言葉でどうしたいのかを伝えていければいい」
ずっと心に溜め込んできた自分の言葉を、震える唇から声にのせる。

「……お母さんたち私の考えを決めつけてくることがあって、そういうのがちょっと苦しい。でも……好きなの。私が学校休むときだって、みんな心配してくれたのに……っ、ありがとうすら言ってない」

柏崎くんは黙ってあたしの話を聞いてくれている。目に涙を浮かべながら、私は訴えるように見つめて言葉を続けた。


「部活だってうんざりすることも多いけど、バスケが好き。誰かに押し付けるようなこと、したくない。自分も押し付けられたくない。私、本当……馬鹿だった」

朝葉に押し付けて安堵して、傷つけていることをわかっていたのに見て見ぬふりをしていた。
ごめんねなんて今更言っても都合がよくて、それなのに朝葉なら受け入れてくれるんじゃないかって甘い考えを抱いてしまった自分が嫌になる。


「私、いつも失敗してから気づいてばかりだ。なんでもっと周りのことを考えられないんだろう。自分の言葉を伝えられないんだろう。こんな自分で悔しい」


自分を好きになりたい。自信を持ちたい。だけど私の中身は醜い。

ぽつぽつと雨が降ってくる。
涙なのか雨なのかわからないものが頬に伝って落ちていく。


「言えるじゃん。自分の気持ち」
「……でも肝心なときは言えない」
「なら、少しずつでいいから変わっていけばいいよ」

心に渦巻く感情が雨に沈んでいく。
いっそのこと消えてしまいたいと願っても、私にはそんな勇気もない。


結局私はあの場所でしか生きられないのだ。
私たちはみんな、本当は平等のはずで、誰が意見を言ってもいいはずなのに、自然と誰かがリーダー格になり、言いたいことを飲み込む人ができてしまう。


「少しはすっきりした?」
「うん。聞いてくれて、ありがと」

嫌なことだってたくさんあるけど、私は自分を投げ出すことを辞めた。

「さっきよりも表情が明るくなったな」
「私、絶対自分を取り戻す」

雨が降り頻る中、目が合うと柏崎くんが笑った。
お互いにびしょ濡れになりながら、私たちは雨の中を歩いていく。

青年期失顔症を治すために、これから向き合わなければいけないことがたくさんある。
部活のこと、友達関係のこと、家のこと。そして、これからの自分のこと。

まだ勇気は出ないけど、それでも無理して笑って元気キャラを作っていた自分を解放していきたい。



そして別れ際、柏崎くんがあるアカウントを教えてくれた。
すぐに私はそれを検索して、書かれている内容に興味を持った。




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平明高校 青失部
『青年期失顔症のお悩みを
いつでも受け付けております!』
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誰かに頼ることを、少しずつはじめていこう。

これ以上、誰かを傷つけて、自分の心すらも見て見ぬふりをしないように。







群青に沈む 完