「私……こんなに自分が弱いなんて知らなかった」

知ろうともしなかった。心が弱いと言って、陰でコソコソと噂話をしながら、自分がないと批判していた。
でも自分が発症してみてわかった。自分がないのではなく、見失ってしまったのだ。

手のひらをこぼれ落ちる水のように、掴むことはできずに消えていく。


「親にはまだ発症したこと話せてないんだ」
「話すの怖い?」
「……それもあるけど、私の本心を理解してくれない気がして」

きっとまたお母さんが思うがままのことを話されて、私の話を聞かずに大丈夫だと慰めてくる。それは優しさではあるけれど、私には息苦しい。


「学校休んでることだって……お母さんが味方してくれたの。嫌なことがあるなら休んだっていいよって。だけど、私がした過ちについてもお母さんは大丈夫だからって言って味方してくれて……それが嫌だってどうしてか思ったんだ。……こんなこと思うなんて酷いよね」
「叱ってほしかった、とか?」

その言葉が心にすとんと落ちてきて、今まではまらなかったピースがかっちりと合った感覚になる。

「叱る……そっか、確かにそうかも。今までお母さんに叱られずに甘やかされてきたから、味方してくれる愛情よりも、きちんと悪いことは悪いって正してくれる愛情がほしかったんだと思う。うちの家族、いっつも私に甘いけど、でもちょっとそういうの疲れるっていうか……」
「案外金守ってわがままなんだな」

柏崎くんに呆れたように苦笑されて、私もそう思うと頷く。


「あのさ、金守。親の愛情は、無償だと思う?」
「え……それは、よく言うよね」
「俺は無償なんかじゃないと思う。家族といっても気遣いは必要だし」

彼の言うとおりだ。それになにかをしてもらうのは当たり前じゃない。……それなのに、私は家族の優しさを当然のように受け取っていた。


「金守は家族に感謝を伝えたり、家族のためを想って何かしたことはある?」
「それは……考えてみると特にないかも」

身近な存在だからこそ、ありがとうなんて伝えるのは照れくさかった。

「俺は家族だから大事にしなさいっていう考えでもないし、世の中には合わない家族だっていると思う。だけど金守の家族は、金守を想っているんだよね」
「……うん。それはそうだと思う」
「されて嫌なことがあるなら、自分はこうしたいって言葉にしたらいい。言いたいことも言わずにわかってもらおうなんて、甘えの環境を作っているのは金守自身だよ」

こう言ったら傷つける。泣くかもしれない。

そう考えて、言葉を飲み込んできた。だけど、もしかしたら私が本音を言わないから、家族に気を遣わせてきたのかもしれない。

私がなにも言えないなら守ってあげなくちゃと思って過剰に干渉していたのだとしたら、意見を言うことを怠けていた自分の怠惰が招いたことだ。