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翌朝、お母さんが控えめに部屋のドアをノックしてから中に入ってきた。
「学校、休む?」
いつもは鬱陶しいくらいの干渉にうんざりとしていたけれど、こうやって甘やかすような言葉をかけてくれるお母さんに目頭が熱くなってくる。
布団の中からくぐもった声で「うん」と答えると、近づいてくる足音に体を硬らせた。
「ねえ、杏里ちゃん。学校でなにかあった?」
話したくない。聞かないでほしい。だけどたぶん、私の家の人たちはそっとしておいてはくれない。
昔からそうだ。なにかあればすぐに事情を聞いて、学校に抗議の電話をしたり、友達と喧嘩をすれば親に連絡を入れる。
構わないで、放っておいて。
そう思うのに、私はきつい言葉を口にした瞬間の傷ついたお母さんの顔を見るのが嫌でたまらないのだ。
まるで私が悪いみたいで、やめてって言いたいだけなのに、ごめんねって泣かれたら居た堪れなくなる。
「友達と喧嘩でもしたの? なんて子? うちに連れてきたことある? そういえば朝葉ちゃん最近こないわね。優しい子だったし、杏里ちゃんと喧嘩しそうには見えなかったけど……あ、でも若菜ちゃんって子はお母さんちょっと苦手だったかな。言葉がきついでしょ」
また言いたい放題憶測で話しながら、お母さんは決めつけるように話を進めていく。
「杏里ちゃんと喧嘩するなら朝葉ちゃんよりも、若菜ちゃんかしら。もしかして意地悪でもされた?」
やめてよ。これ以上、勝手に話さないで。真実を知っている私は、余計に惨めになっていく。
「あまりこういうことは言いたくないけど、一緒にいる子は選んだ方がいいと思うの。杏里ちゃんによくない影響を与えることになるだろうし。ね?」
「っ、なんで」
耐えきれなくなって布団からでた私を見て、お母さんは目を丸くしたあとに悲しげに顔を歪めた。
「そんなに泣きはらして、かわいそうに。よっぽど辛い想いをしたのね。やっぱり原因は若菜ちゃんなんでしょう?」
「お母さん……」
「大丈夫よ。お母さんから学校に連絡してあげるから。ね?」
ああもう、ダメだ。
私は、こうやって何も言えずに母親の愛情とやらに溺れさせられて、強制的に甘えさせられてきた。
私、もう幼い子どもじゃないよ。人間関係だっていろいろあるよ。お母さんが解決なんてできないんだよ。