「なんで食わねぇんだ?」



よく分からない質問をされて、私は思ったことを言った。



「勝手に食べると、怒られる」


「……は?」


「お仕事して、言うこと全部聞いたら、ご褒美に少しもらえる」



パンの耳をいつももらっている。


たまに白米。


それ以外はない。


叶君は、少し深いため息をついて、近くのベンチに腰を下ろした。


私もその隣にちょこんと座って、叶君を見る。


なんだか難しい顔をしていて、悲しそうにも見える。



「お前……ほんと犬みたいだな」


「い、ぬ……」



確かに……と納得してしまう自分に悲しくなる。



「俺は怒んねぇから。だから食え」


「んぐっ……」



私の口の中に無理矢理カツサンドを押し入れてくる叶君。


お、美味しいっ……!



「こんなもの食べたのは、久しぶりです!」



今思えば、私はこの時、彼の前で初めて笑った時だろう。


叶君も幸せそうに、でも少し困ったような笑みを向けてくれて、とても嬉しかった。


おい、しいっ……。


少しずつ、少しずつカツサンドを食べていく。



「おいしい……」


「泣くなよ?」


「泣きません」



泣きたくても涙なんて出ない。