彼女のその華奢な後ろ姿を目で追い始めたのは、もう10年以上前からだったとダニエルは記憶している。

緩く波打つ艶やかなプラチナブロンドの髪、薔薇色の唇と、透き通るような薄桃色の頬、少しつり目がちの長い睫毛に象られたアーモンドアイ。

同じ年の彼女は、その美貌と地位の高さから、早くに王族ーーそれも王太子に嫁ぐだろうことが誰の目にも明らかだった。

10かそこらの歳の頃の同年代の子供たちが集められた王家のパーティー、すなわち王太子の将来の婚約者候補と側近候補を集めた親睦会にダニエルが参加したとき、周囲の雰囲気から、彼女があの上位貴族スタンダード侯爵家の隠し玉だとすぐに分かった。

それゆえ、自分には関わりのない方なのだろう、とも。
あえて覚えめでたくさせて頂けたら、将来の王妃に目を掛けて貰えることになるかもしれない。そんな邪な思いから、ダニエルは慇懃無礼にその少女に声を掛けた。

「お初にお目にかかります、シェリル嬢。僕はエトワルド家嫡男のダニエル・エトワルドと申します。貴女と話す名誉を僕にお与え頂けますか?」

ちらり、と視線を寄越した彼女は興味無さそうにひとつ頷いた。
なんとも傲慢そうな女の子だ、と心の中だけで毒付いて、それでもめげずに隣に陣取った。

「このような集まりは初めてですか?」

「ええ、そうですわね。……だから少し緊張していますの」

ーー本当なのだろうか。緊張というわりには、先ほどから扇子で隠して幾度も欠伸(あくび)を噛み殺していたが。

「初めての場は誰だって緊張するものです。どうですか、リラックスがてら何か食べられては。どうやらシェリル嬢はまだ何も食べられていらっしゃらないようですが、何かお持ちしましょうか?」

すると何故か彼女は少し機嫌を悪くしたようで、キッとこちらを睨む。