「なぁ。言い逃れ出来ると思ってる?自分がやったことも認められないで、この子は相当傷ついてるのに謝罪も出来ない。軽蔑するよ。」

「だから私は…。」

「繰り返すの?カンナの時みたいに。」

冷たく言い放つ俺に、つばきがビクリとした。隣で呆気に取られている女子が「カンナちゃん…。」と囁く様に言った。

つばきが女子を見やって俯いた。
あんなに威勢が良かったつばきが急に口籠って、見てはいけない物を見てしまったみたいな顔をした女子は、気まずそうに佇んでいる。

「ごめんなさい…。」

「え。」

つばきの突然の「ごめんなさい」に、今度はおろおろとし始めた女子を、俺は本当に申し訳なく思った。

「ごめんなさい。あなたに嫌がらせしてたのは全部私なの…。」

伏目がちに悔しそうな目をしたつばきが言った。
たった一言、カンナの名前だけで勝敗がついた。

そうだよな。お前はここでカンナの話をされるわけにはいかないもんな。
俺がここでカンナの真実を話せば、お前の人生は終わりだ。

なーんだ。やっぱり罪がバレるのは怖いんだな。
お前の覚悟はその程度だ。その程度の恋心で、その程度の覚悟でカンナを殺した。

くだらない人間だ。

「ねぇ…、もういいよ。つばきちゃんのこと怒ったりしてないから。もう辞めようよ、ね?」

おろおろしたまま女子が苦笑いを浮かべている。

「いや、怒ってるだろ。」

火に油を注ぐような発言をする俺を、女子がちょっと厳しい顔で見た。

「本当にもう怒ってないから。最初はそりゃあショックだったよ。誰かに悪意を向けられるなんて誰だって悲しいよ。でもね、本当はちょっと気づいてたんだ。もしかして、つばきちゃんじゃないかって。」

「え…?」

つばきが顔を上げた。あんなに強気だった表情はどこかに消えている。

「だって私の友達はそんな素振り全然無かったし、クラスの子じゃないなら誰が、何の為にって考えてたらさ。私、透華とクラスが一緒になってからよく喋るようになって、一緒に行動することもあったしさ。あー、たぶんつばきちゃんが嫉妬してやってるんじゃないかって。」

つばきは何も言い返せないまま、ただもう一度、ごめんと小さく言った。

「ううん。私も気づいてたのに透華と仲良くしててごめんね。ちょっとデリカシー無かったよね。でもね、こんなこと、他の人には絶対にしないでね。約束してくれたら許してあげる。」

女子がニッと笑った。俺はこの子みたいに優しくはなれない。こんな風に強くはなれない。
本当にごめん。心の中でそう繰り返して見つめていた俺にも、笑いかけてくれた。

きっとこの子への嫌がらせは終わるだろう。くだらない恋愛ゲームに巻き込んでしまっただけのこの子に対して、どうか本当に心の綺麗な人達ばかりに囲まれて、高校生活も将来も幸せでいて欲しいと思った。