「これさ、なんで二八九ページなんだ?」

このページを開いていると、今でも少し手が震えてしまう。つばきに悟られない様に、小説を開いたままベッドの上に置いた。

「分からない?カンナちゃんは推理小説もよく読んでたし、こんな単純なこと、すぐにバレると思ったんだけどな。」

「あの時は、俺もカンナも動揺してたし、そんなこと考えてる余裕無かったんだよ。でもさ、今思ったら、ほとんどのページはボロボロなのに、このページは綺麗なままなの、何でだろうって。女の子の挿絵なら他のページにだってあるのに。」

「ツ・バ・キだよ。」

つばきが何でもない、当たり前のことだと言いたそうに、つまらなそうに言った。

「二が“ツ”、八が“バ“、九が”キ“。犯人探しなんて意味無いよって、目の前にいるよって教えてあげてたのに。なーんだ。気づいてなかったんだ。」

「そ…っか…。」

なんだ。そうか。つばきは最初から、嫌がらせを隠すつもりなんか無かった。そんなこと、いつ問い詰められたって痛くも痒くも無かったんだ。

お前がやったんだろって、何でこんなことしたんだって、もっと早く問い詰めていれば、つばきは殺人犯なんかにはならずに済んだだろう。

「あのさ、つばき…、頼みがあるんだよ。」

「なぁに。とーか君のお願いなら何でも聞くよ。」

小説と一緒に放り投げていたカッターナイフを握る。カチカチカチ…、錆びた刃先が顔を出す。

「俺さぁ、大切な人が死んじゃうのは、もう嫌なんだよね。」

錆びたカッターナイフの刃を、つばきは見つめている。付着した黒い物が、自分の血液だと、つばきは忘れてなどいないだろう。

「つばきがこの部屋で自分の腕を切った時、実は俺めちゃくちゃビビってたんだよね。」

つばきの目を見ておどけてみせた。ふふっと笑ったつばきは「とーか君は可愛いなぁ」って言った。

「つばきが自分の血の色を見せつけてきても、そんなことまともに受け入れられるわけ無いし、何やってんだよって思った。お前が帰った後も、何度も何度も拭ったりしてさ。」

「ごめんね。」

叱られた仔犬みたいな目をするつばきに、俺は首を横に振った。

「いや。いいんだ。その後さ、神社で…これからはつばきを守るって約束した日。つばきは俺の腕を切った。」

スッと、腕をつばきの前に差し出した。