十月。季節はすっかり秋になって、制服も長袖のシャツに変わった。もう少ししたらブレザーを羽織らないと肌寒いくらいだ。

高校の近くの並木路にはズラッと銀杏の木が並んでいて、黄色の葉が散り始めている。道行く人達は、転がるぎんなんの実を避けながら歩いている。

「ぎんなんって踏んだらすごく臭いんだよね。」

つばきが嫌そうに顔をしかめる。

「銀杏の葉は綺麗だし好きだけど、ぎんなんは嫌い。美味しくないし。」

つばきが独り言の様に喋り続けるのを他所に、立ち止まって銀杏の木を見上げた。
カンナは銀杏が好きだって言ってた。優しい色だから。夏よりも秋が好きだし、やっとその季節が来たんだって嬉しくなると。

カンナが好きだった季節を、カンナはもう二度と生きられない。あんなに待ち望んでいた夏休みにカンナを失い、これからの季節をカンナ無しで生きていく。復讐の為だけに。

「もー!とーか君、早くー!」

先を行くつばきが膨れて呼んでいる。つばきの待つ方へ歩き出す。
足元で銀杏の葉がカサッと音を立てた。

「何ボーッとしてんの。」

「つばき、今日帰ったらさ、うちに来いよ。」

「何でー?」

「別に理由なんか無くてもいいじゃん。嫌なのか?」

「嫌なわけないじゃん。」

つばきは浮かれて笑っている。夏休みまでに見せていた笑顔とは違う。また前みたいな無邪気な笑顔だ。

つばきはカンナを殺して日常を取り戻した。取り巻く人達の日常を奪って。

人間に与えられる幸せや不幸は平等だと言う。だったらカンナを失った人達に与えられた不幸が、今は多いだけ。
つばきの幸せも俺の不幸も、いずれ平等になる。
俺の手で。