つばきがカンナを慕っていたのは本当だと思う。そしてカンナを死へ追いやった原因が少なからず俺にもあるということも。

俺がカンナを好きになっていなければ、今年も来年もずっと同じ三人で過ごしていれば、カンナは今でも生きていたのかもしれない。

復讐や自衛の為につばきと一緒に行動することや、好きなふりをすること、恋人みたいにキスをしたりすることは、苦痛ではあるけれど、精神を殺せば堪えられる。

放課後、バスの二人掛けの座席に並んで座った。座った二人の間では手を繋いでいる。
時々繋いだ俺の指を曲げたり引っ張ったりして、つばきは子供みたいな遊びをしていた。

「なぁ、つばき。」

「なぁに。」

「俺達が付き合ってるってことは、まだ周りには内緒にしておこう。」

「えっ、何で?」

つばきは狭い座席で身を乗り出してきた。つばきが上げた声に、車内の乗車客の何人かが俺達の方を見た。

つばきはその視線から逃れる様にちょっと俯いて、小声で言った。

「どうして?やっととーか君の彼女になれたのに。」

「カンナが死んで、まだ間もないだろ。なのに俺達がすぐそういう関係になったって知れば、優しくしてくれる人なんてきっと居なくなる。お前が辛い思いをするの、俺は嫌なんだ。」

つばきが繋いでいた手のひらを強く握り返してくる。

「私は平気だよ。何を言われたって。」

「俺が嫌なんだよ。つばきが悲しい目に遭ってる姿なんて見たくない。」

つばきの目をジッと見る。つばきも俺を見返して、少し拗ねた様な言い方で「分かった。」と言った。

「ありがとう。周りに言えなくてもつばきのことは大切だから。」

「秘密は多い方が気持ちいいもんね。」

「あぁ。」

「ねぇ、キスしたい。」

「もうちょっと我慢して。」

つばきの髪の毛をそっと撫でる。夏休みまでは、胸の下辺りまであった黒髪。まだ違和感に慣れない。

「髪、やっぱり伸ばせよ。」

「やっぱり長い方が好き?」

「うん。」

「分かった。」

つばきは嬉しそうに笑う。
ばーか。カンナと同じ髪型が癪に障るだけだ。

バスはゆっくりと走って、いちいち停留場に停まっていく。

「私達、窮屈だね。」

「え?」

「私さ、他の同級生なんかとは違うんだよ。誰にも真似できない凄いことをやったのに、誰よりも窮屈でどこにも行けない。早く大人になりたい。カンナちゃんは今よりもっと広い世界で自由になれたかな。」

お前を大人になんかさせない。カンナが見れなかった世界なんて見せてあげない。
お前の命は俺が握っている。カンナが味わった絶望よりも、もっとずっと強い恐怖を見せてやる。