副長レサは 肩眉を上げて、
再びワズを見た。
そんなレサにワズは、
黙って頷く。
マイケルを2階へ
上げる様に視線で合図したのだ。

そのやり取りを見て、
マイケルは掲げた発光石を
大切に懐にしまった。

「ワズが言うなりゃ、仕方ない。
マイケル、上がれ!商談だ、」

レサが顎をしゃくって、
しぶしぶだと言うように
マイケルとヤオに告げる。

「マイケルしゃん!にかいね!」

ヤオのはしゃぐ声が響くと、
ギルドホールは
再び熱気に包まれた!!

『ワズ!こりゃあ、今は帰っちゃ
ならんよな?それぐらい、大物
になる話なんだよなあー?』

『ああ、残れ!きっと、商談は
途中でオープンされる!その時
は、誰もが稼げる話になるぞ』

まるで潮騒の如く騒ぐ集まりに
応えるワズの声。

そんな騒動を後ろに聞く
マイケルは、
レサに続きヤオと一緒に、
ホールの大螺旋階段を上がった。

一歩上がる事に、
『頑張れ!』やら、
『マイケルは、やると思った!』
等の声援が飛ぶ。

ギルドに顔を出す者は、
マイケルとヤオの状況を知って
いたのだと分かり
マイケルは胸が、熱くなった。

そんなホールの状態を苦笑して、
頭を片手で掻く、
副長レサは
2階に上がると
マイケルを廊下の奥へ案内する。

「1年前のコーラルん時でも、
2階にゃあ上がってないだろ?
まさか、今日マイケルが来る
なんてこたあ、何事なんだ?」

昼間のマイケルの獲物を
見ているレサは、
信じられない眼差しだ。

「2階にはギルド長の部屋に、
会議をする部屋、あと書斎と、
試作部屋、応接の部屋だ。」

それでも、
レサはひとつひとつの部屋を
マイケルに説明していく。

これから商談に入るという事は、
信用として
胸襟を開いてギルドの懐を
見せる事にもなると、
レサはマイケルに告げた。

調整世界に来て1年。
毎日ギルドの巡礼ベッドで、
寝泊まりするマイケルでも
初めての2階。

(漸く、認められた。生きる術
を、この世界で見つけたんだ。)

元世界で、
華僑の流れを組む自分の祖先も、
こんな気持ちを持って
異国に根付いたのだろうか?
と、
その感慨深さを隠して、
マイケルはレサに聞く。

「下のホールが大きい割には、
部屋数が少ないのね。意外。」

「なに、ホールから繋がる階段で
上がれるのは、一部だせぇ。
別の入り口があと2つあって、
1つはラジの家になって、
もう1つは学校に繋がる。
あと、地下にはラボもあるぞ」

ギルドの幹部は、敷地の離れに
居住しているのは
マイケルも知っている。
レサの話では、
このギルドにラジが住む事で、
守りの結界が更に発動する
仕掛けらしい。

「初めて聞く話でビックリだわ。
要は、信用するに値する者しか
商談はしないって、ことね?」

マイケルはヤオの手を繋いだまま
肩を竦めた。

自分の利だけでなく、
その国に住まうに人の為になる。
それは祖父達から
マイケルに叩き込まれた
華人の魂だ。

それに値する物を、
もたらせるかもしれない。

こんなに興奮するモノは、
元世界でも無かったと
手を握りしめ

今マイケルは一番手前のドアに
立つ。

真っ白い重厚なドアが信用の証。

マイケルとヤオが通されたのは、
レサに応接室だと言われた
場所だった。

「マイケル、昼間のテントから
そう時間もたってはいないが、
大鐘が鳴るとは何があった?」

南気候の明るい海辺風土に
映える白亜の応接室で、
腕を組み
1人掛けソファーに
座るのは、ギルドの長ラジだ。

「ワズは間違いなく、大鐘モノだ
と言ってるしな、下んの奴等を
わざわざ待たせてんだぞ?」

レサがラジに、ワズやホールの
様子を報告する間、
ヤオは
彫刻を施された調度品や
キラキラとした家具を、
チラチラ物珍しそうに見ている。

「マイケル、まあ座れや。」

片眼鏡を光らせた副長レサに
ソファーを促されると、
マイケルとヤオは、
レサの向かいに座った。

嵐の海が見える窓を背景に
座るラジに、
マイケルは懐のモノを出すと、
意地悪く笑う。

「貴方が、昼間捨てた屑だよ」

マイケルが出した、
ピンク色に発光する丸石は、
暖かい光を発している。

それを
ジッと見つめて、
ラジの蒼炎眼が揺らめいた。

その様子にレサも身を乗り出し、
片眼鏡を瞳に装着する。

「お前、此れ、何だ、?
どうした!どういう事だ!」

レサが片眼鏡のレンズを
仕切りにガチャガチャと
入れ替えながら叫びはじめた!!

「なんだ!こりゃ!石か?骨?」

レサやワズには『鑑定』の能力は
備わっていない。
だから彼等鑑定士といえども、
魔獣石から造られた眼鏡魔具を
使って解析し、
培った情報経験で鑑定をする
のだ。

しかし例外の能力持ちもいる。
元英雄であるギルドの長ラジは
幾つかの能力持ちでもあり、
その1つが『絶対鑑定』。

「ラジは、もう解ってるよね。
これは昼間の屑、水龍の喉仏
骨に魔力を付加した物だって」

ラジの絶対鑑定眼は、
マイケルの手に釘付けのままで
声を発せず、
腕を組んだまま思索している。

その間もラジの蒼炎眼は
目まぐるしく揺らめいていた。

鑑定眼鏡は種類が幾つかある。
魔力鑑定、能力鑑定、資質鑑定。

鑑定眼鏡は1つの種類を検出する
のみで、
ワズやレサの掛ける眼鏡は、
それを複数レンズで補っている
高性能な物だ。

しかしラジの『絶対鑑定』能力は
眼力の発動で、
すべての特質を見抜く事が出来き、特異点に達すると
時間鑑定も可能だというが、
マイケルには余りピンと
きていない。

「間違いなく、これは昼間の
水龍の喉仏の骨だ。それに、」

ラジはヤオを一瞥して

「ヤオの『遠見』が付加されて
いる。そして、マイケルの目に
今も、ヤオの傍系『遠見』が
発動しているという事から、
この骨に付加した能力を、
マイケルが行使しているという
事になる。と、見立てたが?」

「!!」

言葉を続けた。

マイケルは頷くと、

「骨のままだと ラジ長やレサが
言った様に、只のゴミだよ。
だけど、この水龍の喉仏は魔力
を付加する事が出来る。骨を
媒体として付加を取り込む
ことだって、わたしに出来た。」

真っ直ぐにラジを見据える。

ラジとマイケルの言葉に、
隣で座るレサが声を失なう。

「おい、?そらあ、」

「水龍の骨には、魔法力を
保管する事が出来る性質がある
。それを証明したい。ここの、
ギルドラボで調べて欲しい。」

マイケルは言い切ると、
ピンクに発光する石を手にして
ヤオに手渡した。

「地下のラボで、調べたいと?」

ヤオは、愛おしそうに光る石を
両手で持ち上げ頬すりした。

「これだけじゃないの。これは、
喉仏の骨だけど、水龍の骨全部
が使えるのか。そして付加した
骨を魔獣石みたいに加工できる
のか。もし、全ての部位の骨が
使えるなら、魔獣石よりも手軽
に加工できるはず。それに、
ヤオみたいな付加の仕方を
しらない魔力の少ない子供でも
付加が、誰でも出来るのか。」

そんなヤオの頭をマイケルは
モフモフと撫でて、
ラジを見つめた。

「なるほど、マイケルの考えは
大体予想できる。魔力や能力の
保存と取り出し。手軽な加工と
付加。もし、この骨に全ての
可能性が備わっていたならば、
魔力加工に革命が起きる発見だ」

ラジはスッと瞼を閉じる。

「ラジ、今の事が出来るならぁ
それこそ、大発見だぞ!
どうする?まずは、水龍の骨を
ありったけ取るよな?てかよ、
海底遺構で骨しか見たことね
ー、生きもんだぞ?今まで気に
もしなかったんだ。どれ程ある
なんちゃ、わからん量だぞ?!」

レサは考えるラジに、
焦って話かけながらも、
大判な一枚の海底地図を取り出す。

「わかっているから、ワズが
下に野郎どもを待たせてるの
だ。まずは、マイケルの石を、
商談サンプルとして買取りだ。
そしてギルドで水龍の骨を水揚げ
、一般でも買取りだ。それを
ラボで調べて、商材になるなら
マイケルと契約を結ぼう。」

「なら?!」

「大鐘をならせ!商談オープン!
今を持って、海を統べるギルド
は水龍の骨を優先買取り商材と
する。まずは掌大で100ウーリ」

ラジの言葉を合図に既に、
レサは
応接室の集音機のスイッチを
開いて応えた!!

『おっしゃ!!オープンだ!!
野郎ども!商談成立!!
今を持って、海を統べるギルド
は水龍の骨を優先買取り商材と
する。まずは掌大で100ウーリ!
魔獣石で300ウーリだぞ?
討伐する魔物じゃねーんだ!
潜れる奴等は潜りまくれ!!
海底遺構にゴロゴロしてる、
水龍の骨を片っ端から、持って
うちのギルドに来やがれい!!』

雨嵐の中、ギルド中に響く
副長レサの声と、
それに呼応してホールで大鐘が
鳴らされるのが聞こえると、

『ヴおーーわ!!きたかーー!』
『100ウーリだ?!骨が!!』
『嵐明けにゃでるぞ『おい!組め』

冒険者から、巡礼者からギルドに
いる人間の声が地響きになった。

ザーーーーーーーーーーーーー

『ガランガランガランガラン!』