『ガラーーーーーンガラーーーーーンガラーーーーーン』
干上がる海底遺構にまで
鳴り届く城の鐘の音。
再び鳴り始める
バリアロードが閉じる合図。
「ルウは無事にバリアロードを
過ぎてカフカスに入ったかな」
ひとり
海に出現した海底遺構の回廊で
若女将ロミに持たされた
サンドイッチを食べ終わり
マーシャは
目の腫れが落ち着くと
パチンと指で音を鳴らして
飛行魔法を行使する。
「もうルウに気兼ねしなくても
魔力が使えるのは、寂しいね」
マーシャは呟くと、
ギルドの手前で飛行魔法を解く。
飛行魔法なら数分の距離を、
もう何年も
自分の走って来た。
「ロミさんにも、今日差し入れ
最後の日だから、お礼しないと」
マーシャは勝手知ったる
海辺に建つ巨大なギルドの
入り口を潜る。
相変わらず
カウンターが並ぶギルドは
巡礼者や買取り希望の島民
冒険者で溢れ返る。
「マーシャ!お帰りなさい。
今日は、、ダメだったかぁ。
最後だったんじゃないの?」
ギルドの若女将ロミが、
入り口に立ったマーシャを見つけ
駆け寄ると
マーシャの様子から察する。
「うん、、ロミさん、いつも
ありがとう。でも、最後まで
ルウに食べて貰えなかったよ。
ロミさんのサンドイッチ、本当
に美味しいんだけどなあ。」
いつもなら、
レサがギルドのホールを
仕切っている処を
普段は表に出ない若女将ロミが
いたことで
自分を心配していたのかと
マーシャの気持ちが
温かくなる。
「いいのよ。本当はマーシャが
作ったら良かったのかもね。
そしたら、ルウも食べたんじゃ
ないかなって、思ってたのよ」
「ダメよ!わたし料理できないし
ルウは余計に口にしなかったよ」
ロミが慰める様に
マーシャの頭をポンポンと
撫でた。
「ねぇ、今日はレサさんは?
いつもホールには居てるじゃ
ない?ロミさんが代わりなんて」
ふとマーシャはホールを見回す。
「それがねラジ長も、うちの人
も、主だった人で客人と会議を
してるのよ。なんだか、深刻な
事が、島の反対で置きている
みたいで。そうだわ、マーシャ
ちゃん、お茶を持って行って
くれるかしら?私はここからは
離れられないから。ごめんね」
どうやらレサが居ないのは
他にも訳があったらしい。
マーシャは給仕場を見て
ロミにバスケットを持っていき
がてらだと請け負った。
「それぐらいは、お安いご用意よ
今日は人が多いから、皆んな
忙しいそうだもん。サンドイッ
チのお礼がてら、やるね。」
そう言ってマーシャは早速
お茶の用意をワゴンに乗せて
2階の応接室ドアをノックした。
「失礼します。
お茶をお持ちしました。」
応接室は王族がお忍びで訪れても
対応できる程の調度品や
家具を置いている。
「お、マーシャか。ああ、ルウは
行ったか。お前さんもあれだな」
片眼鏡を光らせて、副長レサが
マーシャのワゴンを
ソファーの横にと指示する。
ウーリウ藩島スカイゲートは
南気候の明るい海辺風土に
映えるよう
白亜の建物が多く、
この応接室も白く明るい。
マーシャは海が見える窓を
背景に
手早くお茶を用意して
客人やラジとレサに出していく。
「マーシャ、お主も話を聞け。
父上であるザード様にも、耳に
入れておいて欲しいのだ。」
腕組みをしていたラジが
隣のスツールを示して
マーシャを呼んだ。
「はい。何かあったのですか?」
「こちらは島の反対側にある
集落のギルド長さんだ。ザフ殿
こちらは、最有国魔導師スイラ
ン伯の娘マーシャ・ラジャ・
スイラン嬢だ。懇意にしている」
ひとの良さそうな雰囲気に
老齢豊かな顎髭を
長く伸ばした
恰幅のよい男が座っている。
「オーベイで集落ギルドをまとめ
るザフといいます。よろしく」
『オーベイ地区』は丁度ギルドが
ある『イェンダ地区』の反対に
位置する集落。
「マーシャです。魔導師です。」
ザフはマーシャを見て、
にっこりと微笑みながら握手を
して礼を取る。
「こんなにお若いのに。さすが
スイラン伯の娘さんだ。」
互いの挨拶が終わると、
レサが片眼鏡を片手で上げて
ザフに向き直った。
「それじゃ、話を戻しやすね。
長殿達。ザフ長の集落で起きた
水龍の出現と消滅について。」
ザフは顎の髭をひと撫でして
口を開いた。
「はい。此のスカイゲートがいつ
もの様に下降してから程なく
あった嵐の時のことですな。
集落の子ども達が水龍が川を
昇るのを見つけたんですよ。」
「うむ。」「水龍か。」
ザフの言葉にラジは
只頷き、レサは眉をひそめる。
マーシャは意外な単語を聞いて
思わず前屈みになった。
「水龍って島にいるんですか?」
そんなマーシャに、ザフが
同意するような頷きをかえした。
けれども、ギルドの長ラジは
驚いた様子は見せない。
「普通は見えない様だが、間違い
なく回遊して川を昇るらしい。
現に魔充石は水龍の骨だ。
マーシャも知ってるだろう?」
ラジはマーシャに応えて、
淹れられた茶を口にした。
「そりゃ、そうだけど、生きてる
水龍なんて見たことないもん」
ザフもそうなのだろう。
マーシャと同じような顔を
ラジに、向けた。
が、意外な人物の名を
今度はレサがマーシャに告げる。
「昔、お前さんのお母っさんは
見たらしいぞ?聞いてないか?
マイケルが捕まえて食おうと
したって話だぞ!なあ、ラジ」
「え?!初めて聞いたわ!」
「いや、水龍を食べる!!」
レサの言葉にザフも驚愕の顔だ。
そんな2人を見ながら
ラジが言葉を繋いでザフに問う。
「問題は、見えぬはずの水龍が
見えたという事だ。16年前の
あの日にも水龍が島を浮遊した
のだ。ザフ殿、例えばだが、
その子ども達に魔力が少ない
幼子がいたのではないか?」
「はい、そのとうりでの。うちの
集落には昔から移民が多かった
からか、魔力の少ない子どもが
ちと多く生まれるのですが?」
ザフの言葉に、レサがラジに
怪訝そうな顔を向け
「なるほどな。ラジこりゃ、
うちん島でもってことか?」
さっきと同じく眉を寄せた。
「うむ。魔力が少なくとも、
訓練を積めば魔力増幅は、
ある程度可能なのは知っての
とおり。しかし幼子はまだ訓練
の前であるから、魔力が少ない
事もある。問題は、水龍だ。」
ラジは腕組みをしたままに
空を見つめる。
「さっきから何を言ってるの?」
マーシャは全く分からないと
ラジとレサを見比べた。
「我がカフカス王帝領には、魔力
の持たない子どもは生まれない
必ず少なくとも魔力を持って
生まれるのが大前提なのだ。」
「16年前の藩島危機を除いてな、
水龍が見えたのは1度しかねぇ
んだよ。それが、マイケルが
水龍に触った時だけてんだ。」
ラジとレサが少しずつ
マーシャと客人ザフに解るよう
話をしていく。
「その時にマイケルが立てた
仮説がある。水龍は魔力のない
者には見え、触ると一時的に、
魔力のある者でも確認できる
ようになり、また見えなくなる」
「マイケルにゃ、水龍が島に押し
寄せるのが見えるってな水龍の
大群に触ってみせたんだよ。
そしたらよ途端に、おれらの
前にマイケルが触った水龍が
現れたんだぜ!ビビったぜ!」
ラジの言葉にレサも昔を
思い出すようにして興奮している
が、マーシャはまだ解らないと
いう顔をして、ラジに再び聞いていく。
「それって、何が問題なの?」
「問題は、魔力の少ない幼子が
触って水龍が見えた事だ。それ
は、その幼子の魔力が失くなっ
ている可能性となる。
もしくは、見えた子ども達
皆同様かもしれないのだ。」
ラジの言葉に
ザフが真っ青な顔をして
手を握りしめた。
「な、なんと!そんなことに!」
「実はな、カフカスの辺境で
子どもの魔力がなくなるって
噂が、けっこう出てきてるん
だよ。とうとうここもか。」
レサも、ザフの様子を見つめ
顎に手を当てて思案顔をする。
しかし、ラジは更なる
懸念を口にしたのだ。
「此が個人の魔力問題なら、まだ
いいが、国全体となると結界に
関わってくる。このスカイゲート
は特に国の護りなのだからな。」
ラジが示した問題に、
応接室の全員が言葉を失くし
頭に浮かんだのは
旧ウーリュウ藩島が大きく
その姿を変革させた、
次元津波による史実、
『旧ウーリュウ藩島
離陸の夜明け』であり、
16年前に藩島を襲った
結界消失という危機状況だった。
干上がる海底遺構にまで
鳴り届く城の鐘の音。
再び鳴り始める
バリアロードが閉じる合図。
「ルウは無事にバリアロードを
過ぎてカフカスに入ったかな」
ひとり
海に出現した海底遺構の回廊で
若女将ロミに持たされた
サンドイッチを食べ終わり
マーシャは
目の腫れが落ち着くと
パチンと指で音を鳴らして
飛行魔法を行使する。
「もうルウに気兼ねしなくても
魔力が使えるのは、寂しいね」
マーシャは呟くと、
ギルドの手前で飛行魔法を解く。
飛行魔法なら数分の距離を、
もう何年も
自分の走って来た。
「ロミさんにも、今日差し入れ
最後の日だから、お礼しないと」
マーシャは勝手知ったる
海辺に建つ巨大なギルドの
入り口を潜る。
相変わらず
カウンターが並ぶギルドは
巡礼者や買取り希望の島民
冒険者で溢れ返る。
「マーシャ!お帰りなさい。
今日は、、ダメだったかぁ。
最後だったんじゃないの?」
ギルドの若女将ロミが、
入り口に立ったマーシャを見つけ
駆け寄ると
マーシャの様子から察する。
「うん、、ロミさん、いつも
ありがとう。でも、最後まで
ルウに食べて貰えなかったよ。
ロミさんのサンドイッチ、本当
に美味しいんだけどなあ。」
いつもなら、
レサがギルドのホールを
仕切っている処を
普段は表に出ない若女将ロミが
いたことで
自分を心配していたのかと
マーシャの気持ちが
温かくなる。
「いいのよ。本当はマーシャが
作ったら良かったのかもね。
そしたら、ルウも食べたんじゃ
ないかなって、思ってたのよ」
「ダメよ!わたし料理できないし
ルウは余計に口にしなかったよ」
ロミが慰める様に
マーシャの頭をポンポンと
撫でた。
「ねぇ、今日はレサさんは?
いつもホールには居てるじゃ
ない?ロミさんが代わりなんて」
ふとマーシャはホールを見回す。
「それがねラジ長も、うちの人
も、主だった人で客人と会議を
してるのよ。なんだか、深刻な
事が、島の反対で置きている
みたいで。そうだわ、マーシャ
ちゃん、お茶を持って行って
くれるかしら?私はここからは
離れられないから。ごめんね」
どうやらレサが居ないのは
他にも訳があったらしい。
マーシャは給仕場を見て
ロミにバスケットを持っていき
がてらだと請け負った。
「それぐらいは、お安いご用意よ
今日は人が多いから、皆んな
忙しいそうだもん。サンドイッ
チのお礼がてら、やるね。」
そう言ってマーシャは早速
お茶の用意をワゴンに乗せて
2階の応接室ドアをノックした。
「失礼します。
お茶をお持ちしました。」
応接室は王族がお忍びで訪れても
対応できる程の調度品や
家具を置いている。
「お、マーシャか。ああ、ルウは
行ったか。お前さんもあれだな」
片眼鏡を光らせて、副長レサが
マーシャのワゴンを
ソファーの横にと指示する。
ウーリウ藩島スカイゲートは
南気候の明るい海辺風土に
映えるよう
白亜の建物が多く、
この応接室も白く明るい。
マーシャは海が見える窓を
背景に
手早くお茶を用意して
客人やラジとレサに出していく。
「マーシャ、お主も話を聞け。
父上であるザード様にも、耳に
入れておいて欲しいのだ。」
腕組みをしていたラジが
隣のスツールを示して
マーシャを呼んだ。
「はい。何かあったのですか?」
「こちらは島の反対側にある
集落のギルド長さんだ。ザフ殿
こちらは、最有国魔導師スイラ
ン伯の娘マーシャ・ラジャ・
スイラン嬢だ。懇意にしている」
ひとの良さそうな雰囲気に
老齢豊かな顎髭を
長く伸ばした
恰幅のよい男が座っている。
「オーベイで集落ギルドをまとめ
るザフといいます。よろしく」
『オーベイ地区』は丁度ギルドが
ある『イェンダ地区』の反対に
位置する集落。
「マーシャです。魔導師です。」
ザフはマーシャを見て、
にっこりと微笑みながら握手を
して礼を取る。
「こんなにお若いのに。さすが
スイラン伯の娘さんだ。」
互いの挨拶が終わると、
レサが片眼鏡を片手で上げて
ザフに向き直った。
「それじゃ、話を戻しやすね。
長殿達。ザフ長の集落で起きた
水龍の出現と消滅について。」
ザフは顎の髭をひと撫でして
口を開いた。
「はい。此のスカイゲートがいつ
もの様に下降してから程なく
あった嵐の時のことですな。
集落の子ども達が水龍が川を
昇るのを見つけたんですよ。」
「うむ。」「水龍か。」
ザフの言葉にラジは
只頷き、レサは眉をひそめる。
マーシャは意外な単語を聞いて
思わず前屈みになった。
「水龍って島にいるんですか?」
そんなマーシャに、ザフが
同意するような頷きをかえした。
けれども、ギルドの長ラジは
驚いた様子は見せない。
「普通は見えない様だが、間違い
なく回遊して川を昇るらしい。
現に魔充石は水龍の骨だ。
マーシャも知ってるだろう?」
ラジはマーシャに応えて、
淹れられた茶を口にした。
「そりゃ、そうだけど、生きてる
水龍なんて見たことないもん」
ザフもそうなのだろう。
マーシャと同じような顔を
ラジに、向けた。
が、意外な人物の名を
今度はレサがマーシャに告げる。
「昔、お前さんのお母っさんは
見たらしいぞ?聞いてないか?
マイケルが捕まえて食おうと
したって話だぞ!なあ、ラジ」
「え?!初めて聞いたわ!」
「いや、水龍を食べる!!」
レサの言葉にザフも驚愕の顔だ。
そんな2人を見ながら
ラジが言葉を繋いでザフに問う。
「問題は、見えぬはずの水龍が
見えたという事だ。16年前の
あの日にも水龍が島を浮遊した
のだ。ザフ殿、例えばだが、
その子ども達に魔力が少ない
幼子がいたのではないか?」
「はい、そのとうりでの。うちの
集落には昔から移民が多かった
からか、魔力の少ない子どもが
ちと多く生まれるのですが?」
ザフの言葉に、レサがラジに
怪訝そうな顔を向け
「なるほどな。ラジこりゃ、
うちん島でもってことか?」
さっきと同じく眉を寄せた。
「うむ。魔力が少なくとも、
訓練を積めば魔力増幅は、
ある程度可能なのは知っての
とおり。しかし幼子はまだ訓練
の前であるから、魔力が少ない
事もある。問題は、水龍だ。」
ラジは腕組みをしたままに
空を見つめる。
「さっきから何を言ってるの?」
マーシャは全く分からないと
ラジとレサを見比べた。
「我がカフカス王帝領には、魔力
の持たない子どもは生まれない
必ず少なくとも魔力を持って
生まれるのが大前提なのだ。」
「16年前の藩島危機を除いてな、
水龍が見えたのは1度しかねぇ
んだよ。それが、マイケルが
水龍に触った時だけてんだ。」
ラジとレサが少しずつ
マーシャと客人ザフに解るよう
話をしていく。
「その時にマイケルが立てた
仮説がある。水龍は魔力のない
者には見え、触ると一時的に、
魔力のある者でも確認できる
ようになり、また見えなくなる」
「マイケルにゃ、水龍が島に押し
寄せるのが見えるってな水龍の
大群に触ってみせたんだよ。
そしたらよ途端に、おれらの
前にマイケルが触った水龍が
現れたんだぜ!ビビったぜ!」
ラジの言葉にレサも昔を
思い出すようにして興奮している
が、マーシャはまだ解らないと
いう顔をして、ラジに再び聞いていく。
「それって、何が問題なの?」
「問題は、魔力の少ない幼子が
触って水龍が見えた事だ。それ
は、その幼子の魔力が失くなっ
ている可能性となる。
もしくは、見えた子ども達
皆同様かもしれないのだ。」
ラジの言葉に
ザフが真っ青な顔をして
手を握りしめた。
「な、なんと!そんなことに!」
「実はな、カフカスの辺境で
子どもの魔力がなくなるって
噂が、けっこう出てきてるん
だよ。とうとうここもか。」
レサも、ザフの様子を見つめ
顎に手を当てて思案顔をする。
しかし、ラジは更なる
懸念を口にしたのだ。
「此が個人の魔力問題なら、まだ
いいが、国全体となると結界に
関わってくる。このスカイゲート
は特に国の護りなのだからな。」
ラジが示した問題に、
応接室の全員が言葉を失くし
頭に浮かんだのは
旧ウーリュウ藩島が大きく
その姿を変革させた、
次元津波による史実、
『旧ウーリュウ藩島
離陸の夜明け』であり、
16年前に藩島を襲った
結界消失という危機状況だった。