自分が触った事で、
この『皇带鱼』らしき魚が
ヤオの目に見えるようになった?

マイケルが不可解な顔で
手にしていた魚を
ヤオは

「しゅごい、ながい!
マイケルしゃん、大きい!!」

喜んで見ている。
マイケルは
そのまま丘に投げた魚?に
近寄って観察する。

川縁まで草が繁る場所は
その草むらがクッションになって
魚は傷1つついてない。

「『皇带鱼』じゃない?
似ている別の魚? ああ、確か
『皇带鱼』にそっくりな奴も
あったっけ?ってじゃない!」

マイケルは
小降り雨に濡れつつも
独特の赤い背鰭を
ウェーブ運動させながら
バタバタする、其れを凝視した。

見た目は同じでも、
習性が違い過ぎる生き物、、

「そりゃそうか。深海魚なら、
うなぎや、鮭みたいに川を
昇ってなんかこない、、と
思うけど。そもそも、うなぎも
『皇带鱼』も生態は謎なんだ。」

「うな?マイケルしゃん!これ
キラキラなの!へんなの!」

ヤオは、雨も気にならない程
目の前の未知の魚、

銀光をさせている長体に
人の顔に見えなくない頭をした
奇魚に
目を奪われているが、

マイケルは
川一杯に未だに川下から
ゴフゴフ音をさせながら
昇る
魚の大群に視線を投げて
唖然となる。

「何。この異常な群れぐあい、」

ヤオが
そんなマイケルを
恐る恐る見上げた。

「マイケルしゃん?」

「どこに、何のつもりで、
川を昇るんだろ?それに、
海から泳いで来てるの?
この川だけなんだろうか?」

「これ?どこ?ほか??」

ヤオの頭をポンポンとは
しながらも、
次々浮かぶ疑問を巡らせる。

そのうちに、
曇天の空がみるみる
明るくなり
雨が、
弱まるのを
マイケルは感じて

「あ、とにかく!こいつを
食べれるようにしないと!
ごめんね?ヤオ。雨あがるね。」

目下一番の理由を思い出した。

「マイケルしゃん、これ、
たべえゆの?へんなやつ。」

「『皇带鱼』なら、まあ干して
揚げるのがまだマシだけど、
水と脂が、どうかなあ?本当は
うなぎが良かったんだけど。」

「おいしゅくないの?」

記憶では、
水分が多く、脂が分解できない
深海魚らしきもの。

「どうかな?なかにはバカみたい
に美味しいってのもいるけど、
確か、お漏らしすんだよね。」

マイケルのことばに
ヤオが口に手をあてる。

「はわ?!もらしゅの?!」

マイケルは
そんなヤオに苦笑しながら、

「魚の中にはね、美味しい脂
なのに食べたら体から
ドンドンでちゃってお漏らし
する肉の奴もいるからねー。」

雨フードを脱いで
急いでナイフを取り出し、
捌きにかかった。

まずは、
やたら人っぽい頭を落とす!
気分は微妙だ、が、

「?!骨が、しっかりしてる?!
なんで!頭を落とせない?!」

見た目どおりの『皇带鱼』なら
難なく落とせる頭にナイフが
入らない。
ヤスリのような鱗の間に
ナイフを入れ込むと
明らかにしっかりとした
骨の感触がある?!

「あ、だからバタバタするのか!
骨がしっかりしてるから。
なら、『皇带鱼』じゃない、、
そもそも 魚じゃない?の?」

肺魚や両生類から爬虫類へ
進化する過程の、
生き物?

「まさか、哺乳類じゃないよね。
ジュゴンとかは美味しいけどっ
て、ワシントン的にタブーか!」

『ザブーーーーッン』

「「わー!!」」

そうこう
謎の魚と格闘している内に
魚はするりと
マイケルのナイフを交わして
大きく跳ね上がると
元の川へ戻ってしまった。

「わ?!ハモ並みの生命力!!」

「マイケルしゃん!!おさかな
きえたの!みめぇないの!」

しかも、
暫くするとヤオの目には又
見えなくなったらしいのだ!

「何なの一体!もう!川はコイツ
らが一杯で入れそうにないし!」

未だぎゅうぎゅう詰めに
川を昇る謎の『皇带鱼』モドキ。
それも、ヤオには見えない
不可解さ。

「ヤオ、さっきの魚って、
他の川にも一杯かわかる?」

雨フードの水を払って
脱ぎ丸める
ヤオにマイケルが
問うと

「みえなの、いっぱい、どこも」

ヤオは一瞬だけ周りの気配を
探る様にして応えた。
見えなくても、気配を見るのか
魔力無しのマイケルには
ヤオの『遠見』の仕組みも
謎が多い。


「あー、そっか。こりゃ、今日は
川は無理っぽいな。ヤオ、魚を
今度は海に捕りに行こう!
雨が止んでる内になら潜れる」

このままだと、
全く成果無しで食べ物もない。
辛うじてヤオの親に渡せる
ウーリの残りしかないのだ。

「うみ?!アンバー?」

ギルドの副長レサが言うには、
この晴れ間も束の間。
すぐに又雨が降ってくる。

「そっか、アンバー残ってたら
ラッキーだもんね。じゃあ、
ヤオにはしっかり、探して
もらっちゃおうかな?ね?」

「がんばる!」

ちっちゃな手を打ちならす
ヤオの巻き毛をモフモフして
マイケルは笑った。

ヤオの雨フードを
鞄に入れて
マイケルはヤオの
その手を繋いで
呟く。

「その日ぐらしも、ヤオんとこも
なんとか出来ないとだめだよね」

曇り空には
俄に架かった巨大な虹。

マイケルとヤオは
何時ものように連れだって
川沿いに海へと降りる草道を
踏み分ける。

そして
今度は
その先の海中で、
驚愕の光景にマイケルは出会い、

とんでもない転換を迎えるとは
思いもしないで。

「マイケルしゃん!!にじ!」

「凄いおっきいねぇ、ヤオ!」