ウーリウ藩島に長雨は続き、
そのままカフカス王領国に
居座ると勢力を増し、
大嵐へとなった。

「マイケル、大丈夫なの?」

巡礼者カウンターでルルが、
外の様子を見に来た
マイケルに声をかける。
あれから
3日も外へ出れていない。

毎日巡礼者のベッドを管理する
ルルには自ずと
マイケルの食事から
懐事情が筒抜けにわかるのだ。

「そろそろ、ヤバいかもね。
ねぇ、ルル。みんな、どうし
たの?なんだか、準備してるし
こんな嵐の中でハント?」

嵐にも関わらず
今日は早朝から
ギルドの中は騒がしい。
見る間に
島民でギルド登録している
男達が、
雨フードや、大きなフォーク、
すくい籠に、ふるい籠を
並べ初めているのだ。

「ああ、あれはアンバーを取りに
浜へ行く用意よ。嵐が止んで
からじゃ、いい場所は捕られる
から。子ども達は、晴れてから
のこりものをすくうけど、
身体強化できて、泳げるなら、
海に落ちても大丈夫でしょ?
度胸試になるけど、ああ
やって島の男は浜にでるの。」

マイケルは、
いつかマモが教えてくれた
嵐のアンバー探しを思い出して
一瞬目を輝かせるが、
すぐ様ため息をついた。

「それで、フォークとふるいか。
いいな、あたしも魔力があった
ら、嵐のアンバー探しにでるの
に。子ども達に混じって、
残り物をさらうしかないか。」

ルルも、そんなマイケルに
力なく微笑んで、

「そろそろ、長雨でハントして
ないから、ウーリがないか。」

徐に
これ食べてとポケットから
トウモロコシスコーンを
出してマイケルにくれる。

ルルの手作りで、朝早くに
焼いたものだろう。

「いいの?ありがとう。ヤオの
おやつに出来るよ。このまま
じゃ、今日の分をヤオんとこに
渡したら、すかんピンだね。
明後日には、ここを出てくこと
になっちゃうな。せっかく、
食事分をベッドに当てたのに」

受け取ったスコーンを大事に
道具袋に入れて、マイケルはルルに笑った。

ルルが副長のレサに、
巡礼ベッドについている食事を
無くして、料金を安くする事を
かけあってくれたのだ。

「食事はさ、海さえ入れば、
マイケルは魚がとれるでしょ?」

少しでも節約ねと、あの日も
笑うルルにマイケルは、
思わず
涙が出そうになった。

「このギルドのみんなは、
筋のとおった優しさがあるよね」

マイケルが嵐に向かって
着々とすすめられる
アンバー獲りの準備を見ながら
呟くと、ルルも

「ほんとは、みんなもね、
ヤオの親だって何んとかしたい
って思ってはいるんだけどね。」

と、囁いた。
同時に、

『そろそろ、嵐が一旦やむぞ!』

レサの声がギルドに響く。

『よーーし!いよいよだ!』
『しっかり稼ぐぞ!』

レサの声を合図に
ホールに出された、用具を
各々手にしながら
男達が一斉に色めきだった。

アンバーはそこそこ魔力がある
ぐらいの島民には、
臨時収入になる。

嵐でかき混ぜられた海には
太古から生成された
天然アンバーが
浜に打ち上げられる。

そんな嵐のアンバー捕りは
魅力的なハントだ。

「ねぇルル、嵐ってどれくらい
止むのかな。さすがに魚とり
たいんだけどな。無理かな?」

「うーん。川ならどう?嵐の時は
みんな浜に行くから人が
いないだろうしさ、
海より安全かもしれない。」

川、、

マイケルは目の前にある
すくい籠を見て、閃いた。

「大雨、、もしかして、うなぎ
みたいなのが捕れるかも?」

マイケルは、すくい籠と
2つの雨フードを
拾って、ルルに親指を立てた。

「ルル!ありがとう!川にいって
みるよ!!あ、ヤオも迎えに
いかなきゃ。これ借りるね。」

ギルドの玄関に顔を出して、

「レサさん!嵐って止むの?」

「ん?ああ、一時的にだがな。」

そこに立つレサにマイケルは
天気を聞くと

「よし!ありがとう!レサさん」

雨フードを被って外に飛び出た!

確かに僅か雨の勢いが
落ちている。
ならばと、マイケルは
全力でヤオを迎えに走った。

マイケルの頭に浮かんだのは

大雨の川には、うなぎが捕れると
いう元世界での伝承だ。

「この世界の植物が近いなら、
生き物だってそうかも。
もしも、うなぎが捕れたら!
サイコーじゃないの!!」

嵐で海底がかき混ぜられ、
アンバーが取れる。
なら
川が濁るほど嵐で
土が流れ出ればアレに似たやつ
が出てくる!!

「ミミズ!!あれを追って
うなぎは川を上がる。もしか
したら似たのがいるかも、、
明るくないうちがいい!!」

マイケルも男達と同じように
雨フードを被って
まだ止み切っていない嵐の中へ
踏み出した。

丘仕事の時に山へ入った先で
マイケルは、蛇ほど大きな
ミミズ的なものを見ている。

ギルドの副長レサが言うには、
夜通し続いた嵐は早朝、
一旦威力を弱めるらしい。
元世界での気象予報は
この世界だと、
『遠見』の1種だとラジ長に
教えてもらった。

海を統べるギルドにとって、
気象を先読みする事は
必須なのだ。

雨風が吹き付ける中、
集落から離れた場所に立つ小屋。

この藩島の建物は白い石造りで
マイケルが知る貧民街に
比べるとキレイな外装だ。
其でも、
1番最初に訪れた時は、
廃棄屋かと思うぐらい
戸口が壊れた住まいが
今は修繕もされて
雨水を貯める大瓶が並んでいる。

マイケルの毎日の、稼ぎと
ヤオを売ったウーリのお陰だ。

「おはようございます。
マイケルです。ヤオを迎えに
きました。開けてください。」

戸口をノックしてマイケルが
中に呼び掛けると、
流石に見知った顔がドアを開けた

乳呑み子を抱いた、癖毛の女。
そして右手首がない。
ヤオの母親ラネだ。

「あんたかい。こんな嵐ん中。」

何故来るんだいとは、
ラネは言わない。

「すいません。嵐が過ぎる前に
ハントしたかったんで。」

マイケルの言葉に、

「あんた、アンバー取りにでも
行くのかい?やめな、嵐ん海、
魔力なしのあんたの出る幕じゃ
ないだろ?稼ぎ頭には長生き
してもらわなきゃ困るんだ。」

堂々とマイケルから搾取する
のが当たり前な態度をとるラネ。

「気にすんな、こいつがヤオを
置いて、おっちんじまうこた
あねーだろうよ。いけ、ヤオ」

ヤオを外に放り出した男は
ロイ。ヤオの父親で、
右足の膝から下がない。

「じゃあ、、行きます。 ヤオ
大丈夫、立てる?行こうか。」

マイケルが投げ出されたヤオに
手を差しのべて、起こすと、
持ってきた雨フードをヤオに
着せる。

「ちゃんと今日も、上がり、
持ってくんだぞ!お前ら!」

ロイの言葉を背中にマイケルは
雨の中、ヤオの手を引いて
川を目指した。

『ヤオの親は脱走奴隷だ。』

初めてヤオを送りに、家に行った
マイケルは、ヤオの両親の
身体欠損に驚いた。
明らかに、刃物で切り取った跡で
血止めに焼いた皮膚が
化膿腐敗したものだと
解ったからだ。

マイケルの問いにギルドの長、
ラジは
忌まわしげで哀しみを湛えた瞳を
珍しくマイケルに向けて
ヤオの両親の事情を告げてくれた
のは、何時だったか。

『カフカス王領国は奴隷を
認めない。当たり前だ。我が国
の民はあまねく魔力を持って
生まれる。だから、幼少より
使い方を教える。魔力があって
も魔法は自然とは使えない。
能力は、魔力とは別に特質だ。
そして、外周国でも珠に、魔力
持ちの能力者が生まれる。その
者は、かつてカフカスに縁が
あった者の子孫だろう。ただ、
魔法の継承が常に出来ては
いないだけになまじ、魔力だけ
持ちながら市井に生まれる民は、
魔力電池として扱われ、
隷属されるようになった。』

それは、カフカス王領国、
ウーリウ藩島を囲む
外周国と、カフカス王領国との
魔力を介して戦争をしてきた
長い歴史もあるのだと
元英雄ラジは苦い顔をして

マイケルに言葉を続けた。