体重が元に戻り、アイドル風の衣装を着ている律は、眼鏡を外せば一目瞭然、南野ひかりだ。
 全校生徒が、律めがけて押し寄せてくる。

「興奮しすぎ! もっと落ち着いて!」

 律の声は、生徒達の足音と叫び声でかき消される。
 恐怖で動けない律にいち早く駆けつけたのは、新條だった。
 新條は手を差し伸べる。
 律は足元に落ちていた伊達眼鏡と表彰状を拾い――新條の手を握った。

「……助けて、新條」

 こんな騒動、律一人では収拾がつかない。

「先輩は俺が守る!」

 怯えている律に、新條はしっかりと目を合わせて答えた。
 二人で、走り出す。
 広い背中が。
 力強く手を引く腕が。
 律にはとても、頼もしく見えた。

「どこまで行くのっ?」
「理事長室。あそこなら鍵がかけれるし気付かれにくいですっ」

 ――そっか。校舎の西の端にある理事長室。ほとんどの生徒が行ったことないだろうし、あんなところに隠れているなんて誰も思わないだろうな。

 だが、いたるところから生徒が出現し、

「待て! 逃がさないぞ」

 理事長室までの進路を妨害され、

「逃げるってことは、本物の南野ひかりで間違いないんだろ!」

 廊下で挟み撃ちにされてしまった。
 教室に入るが、ベランダに追い詰められる。

「どうしよう、新條……」