一度は眉を寄せた話題でも、そう言われると話したくなるくらいには、誰かに聞いてほしかったみたい。
「…山崎でいい?」
察して、空いたグラスを指差す傑は、悔しいけど、できる男だ。
私のキモチを先回りして、これから深くなる話の前に、私が飽きずに頼み続けていたハイボールを用意してくれようとする辺り。
アルコールが体内に溜まっている中で、誰にでもできる気遣いじゃない。
「ラムにしよっかな。モヒート」
だけど、陽人の話をするなら、ハイボールよりもモヒートを飲みたくなる。
小さく驚いた顔をした傑に口の端をあげてみせて、空いたグラスを、自分でカウンターに乗せた。
バーテンダーと目を合わせると、私達の会話が耳に届いていたみたいで、注文を口にしなくても頷いてくれる。
そのおかげで、会話を止めることなく続けられるのだから、バーテンダーは、空気を読む天才でもあるのかもしれない。
「陽人が…別れた彼が、好きだったんだよね」
いつも、ミントを多めにと注文していた陽人。
ライムの果汁感。ミントの清涼感と、ほのかに感じるラムの甘さが好きだと。
私は、モヒートよりも、そんな話をしながら、無垢な顔で笑う陽人が好きだった。
「今も、好きなんだね。彼のこと」
「とてもね。でも、振ったのは私だから」