「助かりました。手、解けなかったので」
消えゆく背中を最後まで見届けている、その後ろ姿に声をかける。
「当然でしょ?キミは女性で、向こうは男なんだから」
振り返った男は、喋り方から想像していたよりもずっと、落ち着いた顔立ちをしていた。
…面長で、目が切長だからなのか。
「相当泥酔してたので。いけるかなと」
「いけるかなじゃないよ。その華奢な腕で、どこからそんな自信湧いてくるの、キミは」
一見クールにさえみえるのに、瞳の奥には、飾らない彼の中身がのぞいてみえる。
「すみません」
突発的に出た謝罪の言葉に、気持ちがこれっぽっちも乗っていないことが見抜かれたのか、重たいため息が頭上から落ちてくる。
162cmの私が7cmのヒールを履いて、約170cm
それでも身長差を感じてしまう彼は、一体何cmくらいなのか。180cmは超えてそう。
なんて、関係ないことを考えながら、彼が落としたため息を追いかけた私に、返ってくる苦笑。
「そうだな。一緒に飲んでくれるなら、許してあげてもいいよ」
苦笑とは打って変わって、たのしげに交換条件を持ちかけてくる彼の、私の反応を探るような瞳に、おや?っと思う。
この誘いを発するタイミングを待っていたんじゃないかと。そんな空気感は、気のせいだろうか。
「…新手のナンパですか?」