賑わいから逃れ、窓際でゆっくりとシャンパンを嗜んでいると、アルコールの匂いを身に纏った男が、だらしなくゆるんだ顔で愛想を振りまいてくる。
参加者全員に、一度はシャンパンが出されたのだから、聞かなくたって分かるはず。
なのに、アルコールに飲まれて、分かりきったことを聞いてくるなんて、ナンセンスだ。
スルーするだけでは、酔っ払いの面倒くささからは逃れられない予感がして、無言で席を立つと、礼儀を1mmも感じられないオトコの手が、手首を仕留めた。
「ちょっとちょっと!人から話しかけられたら、礼儀を持って誠実に返すのが筋でしょ?」
礼儀が足りないのはどっちよ?
と。思わず、しょうもない相手にキレそうになる。
不誠実で無礼な相手に、そこを指摘されたくはない。
だけど、そんな相手を構うなんて、自分の格も下がる気がしてイヤだった。
なにより、大切な百合のハレノヒを、くだらないことで汚すことは許せなくて、湧いてきた苛立ちを、グッと堪える。
「…離して」
「俺と抜けてくれるなら、いいよ。
ヒトリなんて寂しいじゃん」
「全く?それに、友人ときてるからムリ」
「なら友達連れてきてよ。
みんなでタノシイコト、しよ」
「…なに、言ってんの」
タノシイコト、って。
下心まる出しの顔に吐き気がする。
鳥肌と、眉間に寄るシワを抑えられない。
キモチワルイ、本気で。
一体誰の繋がりでここに来てるのかまで探って、その友人に吹き込んでやりたい。頭おかしい奴だよって。
理性的には強気なことを思うのに、振り切れない右手は、オンナである自分の限界を伝えてきて、誰かに縋りたくなる。
こんな時、陽人(はると)が一緒だったなら。
なんて、都合の良いこと。
一年半前に、自分から別れを告げた相手を想う。
「タノシイコト?それって、俺も混ざれるの?」