一歩進み出した私を追いかけるように、ベッドから起き上がった傑の足跡のリズムは、なんとも不規則で。少しだけ、申し訳なくも思った。


一度は承諾したオトナの提案を叶えられなかったのは、私個人の都合だったから。




とはいえ、傑には、いくらだって代わりはいるはずだから、何の問題もない。気にする必要もない。







……ただ、ヒトツだけ、いい忘れていたヒトコトを思い出した。



それは、今さら言わなくてもいいヒトコトなのかもしれないけど、私が、私らしく生きていくためには、必要なヒトコトのように思えた。




扉の前で置き去りにされていた花束をすくいあげて、ヒールに足を通してから、振り向く。


何か言いたげな傑の目に、あえて問いかけたりはせずに、ただ、真っ直ぐにみて、自信たっぷりに言い放ってみせる。




「私はあなたのこと、好きにもなれた。

いつか、あなたも。心から大切にしたい人に出会えることを願ってる」




それじゃあね、と。


サヨナラを告げながら、誇り高く咲いているアマリリスの花束を、傑に手渡した。


前に進めますようにと。百合の結婚式でもらった花束は、答えをみつけた私には、必要ないから。




2度と会うことのないオトコには、キレイなだけの笑顔を残して。


過去に自ら手放してしまった、かけがえのない人を、想う。



どんなに焦がれても、自ら別の道を進むことを選択した以上、陽人の元に戻ることなんて、もう、できないけど。





いつか、どこかで。

陽人に届く私は、誰よりもかっこよく在りたいから。





やるべきことや、挑戦してみたいことは、まだまだ無限にあって。


頭の中で積み上げていくミライのビジョンに、しばらくはタクシーを捕まえることも忘れて、高らかにヒールを鳴らしながら、人気のない深夜の街を歩いていた。