今、傑にはがされていくルージュも、『凛としてる凛香に似合う色だね』と、陽人が毎回、飽きもせずに褒めてくれたもの。
そんな褒め言葉のひとつさえない傑に、愛ある時間を上書きされてもいいのだろうか。
さみしい。
ただ、それだけのことで。
「……まっ…て」
「……え?」
失ってしまう前に、絞り出した自分。
手応えを感じていたはずの傑は、いよいよこれからだという時。
それでも、肯定の意味での 待った、ではないことには、私の声色と、傑の腕を掴んでブレーキをかける力具合で、察してくれたんだろう。
「何?急にどうしたの」
現実に戻って向き合ってくれる姿に、安心と感謝の気持ちはありつつも、いい時に止められた、傑の男的な都合に対する苛立ちも、目に見えてわかってしまう。
傑がそんな風にみえるのも、
私がそんな風に感じてしまうのも。
オンナ、である私だけ。
その役割だけを、傑には求められているから。
「私のこと、好きじゃないよね」
そんなことくらい、俺ならさみしい思いをさせないと、外に連れ出された時から十分にわかっていたはずなのに。
陽人に愛されていた時間を思い出してしまえば、このまま、愛のない時間を進むことはできなかった。
傑が、ワタシ、という存在を、まるごと全て愛して、求めてくれるひとであったなら。
時にたのしみながら、お互いを想い合える1秒1秒があったはず。
欲しかったのは、その1秒1秒で。
片方のシナリオ通りにいかなかったとしても、傑のように、不審な目を向けてきたりなんかしない。
「お互い様じゃない?」
「……っ」